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第68話 腸内細菌だけじゃなく腸管免疫に必要なこと
第68話 腸内細菌だけじゃなく腸管免疫に必要なこと
小中学校の教科書を見ると、小腸と大腸は機能が大きく異なると書いてある。
小腸 vs 大腸の関係をおさらいすると、
・小腸ではタンパク質やビタミンなどの栄養素の吸収をするが、大腸では主に水分を吸収する。
・小腸は、大腸と違い、胃(胃酸)に近くpHは酸性。
・従って小腸に存在する腸内細菌は大腸よりはるかに少ない。
・小腸は細菌が少ないから粘液層も大腸よりもはるかに薄く単層で上皮細胞との接着もルーズ。
・大腸は逆に粘液層は2層(粘着性のある無菌の内層と腸内細菌が浮遊敷いている外層)でがっちりガード(Madushani Herath et al.2020)。
ここまで理解した上で、「腸内環境を整えることが大事だぜ」っていうけど、具体的にどうすれば、腸を元気にできるか?
ポイントはズバリ2つ。
1)腸内細菌を育てろ!(種子をまけ!)
2)腸壁を育てろ!(畑を耕せ!)
ドリフターズの主役は志村けんだとするなら、免疫反応の主役は誰か?答えはリンパ球。
このリンパ球がガッチリ働かないと免疫力はアップしない。
さらにこのリンパ球はどこにいるのか?答えは腸管(特に全身のリンパ球の60%以上が小腸に配備)
じゃあ、リンパ球の燃料は何か?答えはグルタミン。
じゃあ、腸管の燃料は何か?
小腸粘膜細胞の燃料はグルタミンがメイン(食べ物からゲット)で、大腸の1番の燃料は酪酸(腸内細菌が食物繊維を食べて作ってくれる)だ。
つまり、免疫力をアップするには、腸内環境を整える必要があって、具体的には腸内細菌を育てて(種子をまき)、腸壁も育てること(畑を耕すこと)が重要。
腸壁を育てる(畑を耕す)にはどうしたら良いか?
そのアンサーは、グルタミン(Glutamine:Gln)だ。つまり体内で合成できるアミ酸。グルタミンのほとんどが筋肉内で合成され短時間で分裂する小腸の燃料となるからマラソンランナーたちがサプリメントでグルタミンを摂取するのも理解できる。また、1週間以上の絶食や外科手術の術後など長い間絶食すると 腸管粘膜が弱く(絨毛の萎縮)なり、バリア機能が破壊され免疫力(防御力)が低下する。ところが、消化管すべての粘膜に必要な燃料となるグルタミン、ファイバー、オリゴ糖を組み合わせたGFO療法を行うと消化管粘膜がダメ(萎縮)になるのを防ぐことができる。栄養医学的に、“When the gut works use it !” 「腸が働いているなら、腸を使おう!」という原理原則があるくらいだ。
抗がん剤投与や放射線治療の場合、またはピロリ退治などの抗生物質投与の場合に消化管細胞(特に小腸粘膜細胞)がダメージをくらって下痢するので、グルタミンをアタックするとよい。ちなみに医薬品ではマーズレンが90%グルタミンだ。
じゃあ、グルタミンは何に含まれているか?というと、大豆、海藻類、生肉、生魚、生卵など身近な食品に多く含まれる。
グルタミンランキング
第1位 マグロ赤身(100g)約1180g
第2位 牛もも肉(100g) 約900mg
第3位 牛乳(200ml) 約620g
第4位 豆腐(100g) 約600mg
第5位 鶏むね肉(100g) 約400mg
グルタミンの役割
・小腸粘膜細胞の最大の燃料
・大腸粘膜細胞の2番目に重要な燃料(1番は酪酸)
・免疫細胞(特にリンパ球)の燃料
ます。
ただし、グルタミンは40℃以上の加熱によりブッ壊れる(変性する)ため、サラダや刺身など生で食べる必要がある。
何だよ!わんちゃんや猫ちゃんにあげにくいじゃんと思うだろ。
グルタミンを摂取するのに食品からはなかなか難しいかもしれないが、グルタミンは何からできるか?と言えばグルタミン酸から作られる。つまりグルタミンの”材料”であるグルタミン酸を摂取することで効率的にグルタミンを腸管に緊急配備することができそうだ。
じゃあ、グルタミン酸は何に多く含まれているか?
仮にグルタミン酸選抜総選挙があるとするなら、不動のセンターは昆布だ。昆布は、チームグルタミンの前田敦子ってわけか
AKB選抜総選挙ファン投票で1位に返り咲いた前田敦子さんのあの名言をパクるなら、
「一つだけお願いがあります。昆布のことは嫌いでも、グルタミンのことは嫌いにならないでください」
川野浩志(獣医学博士、日本獣医皮膚科学会認定医)
東京動物アレルギーセンター センター長
藤田医科大学医学部 消化器内科学講座 客員講師
あとがき
このメルマガのコンセプトは、「診察室では話しきれない情報を伝える」で、「ヒトとペットの健康に関わるイケてる研究論文を独断と偏見でピックアップしておじいちゃんでも理解できる言葉で噛み砕いてわかりやすく表現すること」にコミットします。情報量がかなり多くて1度読んだだけでは100%の理解は難しいと思います。仮に10%しか理解できなくても次に読んだり聞いたりした時に点と点が繋がって線になる時がいつか来るので心配しないで下さい。
特に腸内細菌と口腔内細菌と皮膚細菌にググッとフォーカスし、鋭くザクッとメスを入れます。特に免疫細胞の70-80%が配備されている腸管は脅威となる病原体との主戦場となる。動物病院でアレルギーのペットを毎日診断・治療して、課題はやはり「慢性炎症のコントロール」と「フリーラジカルの制御」だと考えています。
有効な菌を与え(プロバイオティクス)、その菌を育てる(プレバイオティクス)ことで腸壁に住む細菌のアンバランス(dysbiosis)を元に戻すと痒いという症状が結構改善していく動物たちを目の前でみて、やはりそのキープレイヤーとなるのは菌だと感じています。
口から入り胃を通過して腸管内を移動し、定住せず短期間だけ“宿泊”し、腸管の動きに合わせて移動しながら、その一瞬一瞬で任務を全うして勇敢に戦死するビフィズス菌や乳酸菌。
まだ絶対的正解はないが、実際に決定打となり裏打ちする研究結果がはっきりとそれを証明している。特に脅威となる皮膚のブドウ球菌や口腔内のグラエ菌に対して殺菌という空爆で有用菌まで爆撃することのないように静菌制御して、一生懸命育てた菌の邪魔をしない世界を目指します。
そんな想いを高速道路サービスエリアに設置されて、「コーヒールンバ」の曲にのせてプチ贅沢なコーヒーが出来上がるまでの時間でも読めるくらいにギュッとコンパクトにまとめて発信します。この記事が誰かの目に留まり、アレルギーで痒がる世界中のワンちゃんと猫ちゃんへの恩送りとなりますように…
文責
川野浩志(獣医学博士)
日本獣医皮膚科学会 認定医
藤田医科大学医学部 消化器内科学講座 客員講師
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