第46話　犬や猫のアトピーの治療戦略(後半戦)

最新の研究から、腸内環境を改善したらアトピーが良くなったというたくさんの研究報告があります。
どうしてお腹をよくするとアトピーがよくなるの？というと、そのメカニズムの主役は自分の体の中にある警察官の役割をする制御性T細胞(Treg)です。犬のアトピーの“主犯格”はTh2細胞です。この指名手配犯を薬で押さえ込むのではなく、自分の中にいる警察官である制御性T細胞(Treg)の力を借りる作戦です。
この警察官(制御性T細胞:Treg)が持っているピストル(IL-10)は、アトピーで暴れまくるTh2細胞の過剰反応を抑えてくれます(Yoshihara Y, et al. 2019)。
だからどうにかしてこの警察官(制御性T細胞:Treg)を増やしたいんです。じゃあどうしたら増えるかというと方法が２つあります。
1)(その子にあった)乳酸菌
2)乳酸菌の大好きなエサ

まず、お腹の中で乳酸菌が増えると、乳酸菌が酪酸という物質を生み出します。この酪酸は警察官(制御性T細胞:Treg)の“給料”になるので酪酸をもらった警察官(制御性T細胞:Treg)はガンガン働くようになります。つまり、お腹の中で乳酸菌が増えると酪酸という“給料“がでます。それを受け取った警察官(制御性T細胞:Treg)がピストル(IL-10)を撃ちまくりアトピー(Th2細胞)という鉄パイプや金属バットを振り回し暴走行為を繰り返す暴走族をガンガン検挙します(Yoshihara Y, et al., 2019)。

次に、乳酸菌の大好きなエサであるオリゴ糖を同時に取るとさらに良いでしょう。オリゴ糖の中でも最も小さい三糖類であるケストースを飲むと警察官(制御性T細胞:Treg)が元気になることがわかっています( Furusawa Y .2013)。実際にケストースを飲むと、酪酸がガンガン増える結果、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎に対し改善効果を示すが報告(Shiata R, 2009)されています。

実は、このケストースを飲むと腸管の中でパズルゲーム「ぷよぷよ」のようが物凄い連鎖反応が起こります。

<ケストースを飲んだ後のぷよぷよ風連鎖反応>
ケストースを飲む→ビフィズス菌が増える→ビフィズス菌が出す酢酸(さくさん)が増える→その酢酸を食べる酪酸菌が増える(Rivière A et al. 2016) →酪酸菌が増えると酪酸(らくさん)が増える→ 酪酸(“給料”)が増えると警察官(制御性T細胞:Treg)が増える→ピストル(IL-10)でアトピーの主犯格(Th2細胞)を撃ちまくる。

ちなみに犬がケストースを飲むと腸内に存在する健康維持に必要な「ビフィズス菌」、「乳酸菌」、「酪酸菌」を選択的に増やす(Kaori IDE, et al.,2020)ことがわかっています。さらに、ケストースを飲むと、犬の急性下痢の原因となる腸内病原性菌であるSutterella sppやClostridium perfringensなどを驚異的に減少させることが報告(Suchodolski, J. S. 2012.）されている。犬だけじゃなくて猫ちゃんでも整腸効果があることが報告(Shinohara, et al., 2020)されています。

犬の血液からリンパ球を取り出し、6種類の乳酸菌と混ぜて、どの乳酸菌が元気モリモリになるのか？と言う検査(IL-10を測定)を103頭のアトピーの犬で調べたらとある乳酸菌がとんでもなくスゴイパワーがあることがわかりました。
しかもその乳酸菌が大好きなオリゴ糖を調べたらケストースでした(Endo A, et 2016)
つまり、ケストースと乳酸菌による相乗効果(シンバイオティクス効果)が起こることで、犬や猫のアトピー改善や強い整腸作用などが期待できるってことです。

あとがき
このメルマガは、「診察室では話しきれない情報を伝える」で、「ヒトとペットの健康に関わるイケてる研究論文を独断と偏見でピックアップしておじいちゃんでも理解できる言葉で噛み砕いてわかりやすく表現すること」にコミットします。
特に腸内細菌にググッとフォーカスし、鋭くザクッとメスを入れます。動物病院でアレルギーのペットを毎日診断・治療して、ペット合ったオーダーメイドの乳酸菌を飲むとによって腸内の細菌のバランスを元に戻してあげることによって痒いという症状が改善していくの目の前でみて、やはりカギとなるのは菌だと感じています。そんな想いを高速道路サービスエリアに設置されて、「コーヒールンバ」の曲にのせてプチ贅沢なコーヒーが出来上がるまでの時間でも読めるくらいにギュッとコンパクトにまとめて発信します。この記事が誰かの目に留まり、アレルギーで痒がる世界中のワンちゃんと猫ちゃんへの恩送りとなりますように…

文責
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川野 浩志(獣医師 獣医学博士)
日本獣医皮膚科学会 認定医
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