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忘れられない人々 vol6 平太さんとチイ子さんの物語②

平太さんとチイ子さんの物語② ~支えているのは誰か、支えられているのは誰か~

 



30年近くもチイ子さんの介護を続けてきた平太さんですが、さすがに90歳を過ぎて平太さん自身に健康や体力に陰りが見えてきました。

 

「認知症状があるのか、自信の身にかまうことが難しくなっているようだ。」といった情報が入るようになってきました。

 

区分を見直すのか、訪問介護の回数を増やすのかみんなで話し合うことになりました。

 

話し合いと言っても、当の平太さんは最近耳が遠くなって、なんだかピンとこない表情をされています。

よく聞こえない中で平太さんが繰り返し言われるのが

「私の耳はほとんど聞こえません。」「妻は全く歩けません。」ということです。

 

そして、私たちは思いました。

耳が遠くなっているだけでなく、もしかすると視力も落ちているかもしれない。嗅覚も低下しているかもしれない。・・・

認知症状の悪化と間違えられやすいのが5感が鈍くなるという症状です。聞こえないから、見えにくいから、臭いに気づきにくいからわかっていないように見えることは往々にしてあるのです。そして、原因に応じて対応は全く違ってきます。

注意しないといけません。対応次第では深く傷つけてしまいます。

 

もう一つ「妻は全く歩けないんです!!」

チイ子さんは60歳で病気を発症してその後遺症で歩けない、左手が思ったように動かせなくなっています。

定年退職後平太さんに待っていたのは奥さんの介護と家事でした。それをもう30年近くされています。

我が身にかまう暇もなく、『平太さんの目にはチイ子さんしか映っていないんですね』

私たちは今更ながらハッとしました。

 

平太さんがチイ子さんを守り続けた日々が私たち支援者に多分同じように映像として見えた瞬間でした。

 

チイ子さんが言いました。

「私がもう少し元気で、歩けたらよかったんだけど。」

いえいえチイ子さん、それはどうでしょうか。

 

人は誰かの役に立つ、誰かに頼ってもらったときに思った以上に力を発揮することがあります。平太さんが我が身にかまう暇もなく、チイ子さんのために生きたことは何より平太さんを元気にさせたんじゃないでしょうか。

平太さんがチイ子さんの世話をしなくなり、誰かの世話になるようになったとき、平太さんは一気に元気をなくすであろうことは容易に想像ができます。

 

平太さんを元気にさせているのはやっぱりチイ子さんなんです。

 

結局、支援内容は変えずに、なにかお手伝いが必要になったときはサッと過不足なく支援できるようにしておきましょうということで話し合いを終えました。

 

~支えているのは誰か~なんて、ナンセンス。

お互いさまでしたね。愛であふれています。

チイ子さんは少女のようで、平太さんは相変わらずの男前です。

一日でも長く、今の暮らしが続きますように。

 

 

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