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防腐剤は本当に「悪」なのか?
化粧品って毎日使うものですよね。肌に直接触れるものだからこそ、最も大切なのは「安全性」です。化粧品は「安心して使えること」が第一ですよね。だからこそ薬機法で定義があるのです。
でも、インターネットやSNSでは「防腐剤は危険」「天然なら安心」といった声が溢れています。そう聞くと、不安になって防腐剤フリーや手作りコスメに惹かれてしまう方も多いかもしれません。
けれども、化粧品が安全であるためには「微生物が繁殖しない」ことが欠かせません。保存性が確保されていないと、カビや雑菌が繁殖し、肌荒れや感染の原因になってしまうのです。キレイになるはずの化粧品で肌が荒れてしまうだなんて本末転倒ですからね。
そこで今回は、防腐剤は本当に「悪」なのか?というテーマでちょっと書いていきたいと思います。
【なぜ「防腐剤フリー」が広がったの?】
では、過去をちょっと振り返ってみましょう。2000年代以降、世界的に「防腐剤は体に良くないのでは」とする議論が強まりました。
きっかけのひとつはパラベンです。2004年に発表された研究で乳がん組織からパラベンが検出されて、エストロゲンのような作用があるのでは、という報告がされました(Darbre et al., Journal of Applied Toxicology)。
このニュースは世界的にも大きく広がりましたが、その後の欧州科学委員会(SCCS)の評価では「パラベンの作用は非常に弱く、通常の化粧品濃度で健康被害の明確な証拠はない」と結論づけられています。つまり「パラベン=がん原因」という理解は誤解を含んでいるというのです。
防腐剤と言ってもパラベンだけではありません。
例えばイソチアゾリノン系については、代表的なものとしてMI(メチルイソチアゾリノン)とMCI(メチルクロロイソチアゾリノン)があります。こちらは、よく混合物(MCI/MI)として使われていて、強い抗菌作用を持つ一方で、接触皮膚炎の原因になりやすいことが知られています。
このためEUでは2017年よりリーブオン製品(洗い流さない化粧品)での使用は禁止されました。リンスオフ製品(洗い流すタイプ)でも厳しい濃度制限があり、MIは0.01%(100ppm)、MCI/MI混合は0.0015%(15ppm)までに制限されています。日本ではどうか?というと、化粧品基準でMCI/MIの配合上限は0.01%(100g中0.01gまで)とされていて、粘膜部位には使用することができません。
あと、アメリカなどでよく使われているホルムアルデヒド放散型防腐剤(イミダゾリジニルウレアなど)については、アレルギーや刺激の懸念から、日本では化粧品への配合が禁止されています。
こうした規制や報道、さらに2001年に開始された日本での全成分表示制度にも関連して、「防腐剤=避けるべきもの」という消費者意識が広がっていったように思います。
【天然だから安全という思い込みの落とし穴】
「天然」や「防腐剤フリー」という言葉には安心感があります。なんか魔法のような言葉に聞こえますよね。でも、天然成分でも肌に刺激やアレルギー反応を起こすことがあります。
これをセミナーとかでお話しするとかなりびっくりする方がいらっしゃいます。たとえば、イメージがいい精油ですが、精油の成分の中には皮膚を刺激するものもあり、濃度や使い方によってはトラブルの原因になります。(この辺りはまた改めて海外での精油/香料についてじっくり書きます。)
また「防腐剤フリー=安全」とは限りません。保存性のない手作りコスメや市販品では、数日で雑菌が繁殖することもあります。FDAや厚生労働省も、保存が不十分な製品や手作り化粧品に注意するよう呼びかけています。
さらに、オーガニック認証の化粧品であっても防腐成分が全く入っていないわけではなく、認証機関により許可された成分(ソルビン酸、安息香酸Naなど)が使われています。これらは、旧指定成分といって、肌に刺激がある成分としてパラベンと同様に指定を受けていた成分でもあります。
そして、最近、びっくりなのが「fragrance(香料)」と表示された成分の中に、防腐剤としての効果を持つものが配合されていることがあります。代表的なのが天然由来のNaticide(ナティサイド)です。
アーモンドやバニラの香りを持つ香料として扱われますが、実際には防腐剤としても働きます。それにもかかわらず表示上は「fragrance(香料)」としか記載されません。このように、表示からは成分の役割が見えにくい場合もあったりします。防腐剤フリーと書きたいばかりに、香料という防腐剤を使うってことです。
【自己防腐型化粧品という新しい考え方】
防腐剤を一切使わないのではなく、安全性を保ちながら微生物が生きづらい環境をつくるアプローチが「自己防腐型化粧品(Self-preserving cosmetics)」です。食品分野で使われる「ハードルテクノロジー」(複数の障壁で菌を防ぐ方法)を化粧品にも応用しています。
製造環境の衛生管理、エアレス容器による外気遮断、pHや水分量の調整、抗菌成分を組み合わせるなど、複数の工夫を積み重ねることで保存性を確保します。防腐剤フリーを好む消費者が増えるといろんなアイディアが出てきますね。それはそれで面白いなと思います。
【シーオーツープラスの取り組みについて】
シーオーツープラス株式会社では「炭酸ガスを溶解した炭酸化粧品」をエアゾール容器で提供しています。エアゾール容器は密閉されていて、内部には酸素が存在しません。そのため外からの空気や雑菌が入りにくく、汚染のリスクが低い仕組みになっています。
さらに、天然由来の抗菌成分である「ヒノキチオール」を20年以上、防腐処方として活用してきました。いろいろな苦労がありましたが、カビや雑菌の混入によるトラブルは一度もなく、自己防腐型化粧品の実践例として成果を積み重ねています。
【最後に】
化粧品は「天然であること」より「安全であること」が大切です。防腐剤は悪者ではなく、適切に使われることで私たちの肌と健康を守ってくれています。
ネット情報に流されるのではなく、厚生労働省、FDA、欧州委員会といった信頼できる公的機関が示す基準を確認することが、自分に合った化粧品選びの第一歩です。シーオーツープラスでもその基準に基づき、炭酸ガスとエアゾール容器、そしてヒノキチオールを組み合わせて、安全な製品づくりを続けていき、お客様に喜んでいただきたいと思ってます。
【参考文献・出典】
・厚生労働省『化粧品基準』(昭和46年厚生省告示第331号、最終改正 令和2年厚生労働省告示第196号)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/keshouhin-standard.pdf
・U.S. Food and Drug Administration (FDA), “Prohibited & Restricted Ingredients in Cosmetics”
https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetics-laws-regulations/prohibited-restricted-ingredients-cosmetics
・European Commission, Regulation (EC) No 1223/2009 of the European Parliament and of the Council on cosmetic products
https://health.ec.europa.eu/system/files/2016-11/cosmetic_1223_2009_regulation_en_0.pdf
・Darbre, P. D. et al., “Concentration of parabens in human breast tumours”, Journal of Applied Toxicology, 2004.
・SELF Magazine, “Natural Makeup: What’s Health and What’s Hype”, 2017.
https://www.self.com/story/natural-makeup-whats-health-and-whats-hype
・Nourished Life, “Preservatives in Organic Skincare”
https://www.nourishedlife.com.au/blogs/talking-clean/preservatives-in-organic-skincare
・Organic Beauty Award, “Natacide & Other Naturally Derived Preservatives”
https://www.organicbeautyaward.com/articles/natacide-other-naturally-derived-preservatives-715
・Furphies, “Fragrance Ingredients”
https://www.furphies.org.au/fragrance-ingredients.html