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TENが生まれるまで

TENが生まれるまで

虹の橋を渡ったペットちゃんと離れるのは寂しい。
​ペットロスに苦しむ飼い主様の心にそっと寄り添い、あの子が生きていたころと同じようにずっと一緒に。
今までのように、これからも。
​飼い主様のそばにあり続けます。

「野良猫てんちゃんとの出会い」

新潟県燕市で、金属加工の工場を営む社長の大倉は、猫嫌いだった。
​現在の工場がある場所は、以前は大倉の住宅であり近所には野良猫がたくさん住んでいました。
​そこら辺でおしっこはするし、猫アレルギーの大倉からしてみれば、厄介でしかなく、極力関わらないように過ごしていました。
​そんなある日、大倉を含めた家族みんなに懐いてきた一匹の野良猫がいました。
​動物は本能的に自分を嫌う人間にあんまり近寄らないのにその子は、どんなに素っ気なくしても、足元で甘えて撫でてとせがみました。

いくら猫が嫌いでも、ここまでされたら嫌な気持ちなんてしない。
​しかし、すでに今の工場の建設が決まっていて、家族は引っ越して家は取り壊す予定でした。
​どうせいなくなるだろうと思い、家を取り壊すまでここにいさせてあげようと、家に来たときは迎えいれてあげるようになりました。
​家族で、てんちゃん。と名前まで付けて。
​人間とは不思議なもので、その頃にはなぜか大倉の猫アレルギーも無くなっていました。
​そうこうしているうちに、工事が始まり、周りの野良猫たちも見かけなくなり。
​同じようにてんちゃんも、半年ほど見かけなくなりました。
​きっとどこかで頑張って暮らしているんだろうな。なんて勝手ながら、大倉は少し寂しい気持ちで過ごしていました。
​そうして新しく出来上がった工場が始動し、少し経った頃。
​なんと、てんちゃんが帰ってきたのでした。
飼ってもいないくせに、帰ってきたなんて言い方はおかしいが、てんちゃんが事務所の前に来たときは「おかえり!」と言って迎い入れていた。
​その頃には、もうてんちゃんは大切な家族になっていたのです。
​事務所に迎え入れて、温かい寝床を用意してあげたら、すぐに馴染んでくれたてんちゃん。
​元野良猫なのに甘えん坊で、事務所に人がいないと安心して眠れない。
​がやがやと事務所で人が仕事をしていると、安心しきった表情でお昼寝する姿に、工場内ではすぐにアイドルになりました。
こうして家族になったてんちゃんですが、家族として一緒に過ごせる時間はそう長くはありませんでした。
​野良猫特有の猫伝染性腹膜炎が発覚し、お散歩や走り回るのが大好きだったてんちゃんは、どんどんと衰弱していってしまいました。
​この時に大倉は、後悔しかありませんでした。

なんでもっと早く家族に迎えてあげなかったんだろう。
​なんでもっと早く病院へ連れて行ってあげなかったんだろう。
​もっとたくさん可愛がって、美味しいものをお腹いっぱい食べさえてあげればよかった。

あの時。とか、もっととか。そんな気持ちが溢れてきて、止まりませんでした。
​そして、とうとうてんちゃんにお迎えが来てしまった日。
​家族みんなで泣いているのに、大倉はなぜか泣けなくて。本当に苦しくて悲しい時って、涙も出ないのだと初めて気づきました。​
​ぽっかり心に穴が開いたなんて使い古された言葉ですが、本当にその言葉の通りでした。
そうして、てんちゃんの亡骸を火葬してもらい、手元に戻ってきたときのあの真っ白で無機質な骨壷を見たとき、悲しさより申し訳ない気持ちが湧きだしました。
​こんな冷たくて、小さな入れものに入れちゃってごめんね。
​また後悔が押し寄せてきて、冷たい骨壷を撫でながら謝り続けました。
​子供たちも同じことを思ったらしく、このまま霊園に入れるのは可哀そう。
​​寂しがり屋のてんちゃんは絶対に一匹で霊園に入れたりしたら駄目だよ。
​このまま今までみたいに、みんなで一緒に過ごそうよ。
​そう訴えてきました。
​一緒に過ごせた時間は少なかったけれど、大切な家族を一人にしておくことなんてできない。
​生きている間にしてあげられなかったことを、これからもっともっとたくさんしてあげたい。
​甘えん坊のてんちゃんは、すぐに膝の上に乗ってきて撫でてとせがんできた。
​なら、同じように過ごせるお墓はないだろうか。
​大倉は色々な製品を探し回りました。
​昨今のペットブームも相まって、ペットのお墓の種類はたくさんありました。
​しかし、膝に乗せたり、撫でたりできるお墓がどうしても見つけられませんでした。
​実際、まだまだ手元供養は霊園への納骨や、庭への散骨や埋葬より需要が少ないのか、可愛い絵柄の骨壷だったり、仏壇のようであったり。
​どんなに探しても見つけられない。

見つけられないなら、作ればいいじゃないか。

大倉は思い立ち、ペンを取りました。
​愛するあの子と触れ合って繋がっていられる。
​そして、パワーやエネルギーを感じ取れるように。と、無心にスケッチをしていきました。
​悩みに悩んで出来上がったのが、両掌で持つとちょうどいい大きさで、卵型のお墓でした。
​これからもたくさん撫でてあげたくて、撫で心地にこだわりたい。
​友人たちの力も借りて、まずはプラスチックで試作しました。
​トイカプセルのような形状にすれば、撫で心地も良いだろうなんて簡単に考えましたが、よく見ると、はめ合わせの部分には噛み合わせのための段差があり、これでは卵型とは到底言えません。
​無理を言って何度も、何度も試作を重ね。
​ようやく出来上がった段差の無い、綺麗な卵型のお墓。
​そこにてんちゃんのお骨を移し替えてあげて、膝の上に乗せ、ゆっくりと撫でたとき、静かに涙が零れました。
​すっぽりと手の中に納まるてんちゃんを、何度も撫でていると自然に「おかえり」という言葉が漏れ、ようやく自分の涙に納得しました。

お墓は、残された者のエゴでしかない。
​どうやってその子を弔うかは人それぞれ。
​人の数だけ、お別れの仕方も変わってくる。
​お別れではなく、形を変えて帰ってくる。

​​おかえりと、また迎え入れて、これからも大切に過ごしていくことが大倉の中の答えだったのです。