追いこさないで

追いこさないで


「進行性難病のAさんにムセが増えてきました。」ということがカンファレンスの話題になりました。

Aさんも同席です。

セオリー通り、医師も含めて「水分や汁物にはトロミをつけた方が良いのではないか。」となります。


Aさんは「まだ、大丈夫です」との意向。

みんな一瞬困りますが、やはり『誤嚥性肺炎が怖いので』という説得で一度試してみることにしぶしぶ同意されす。

Aさんの何とも言えない表情が心情を物語っています。


進行性の病気で新たに何かを導入するという事は、病気が進行しているという事を意味しています。

「まだ、大丈夫・・・」と、思いたい。進行を認めたくないという切ないほどの思いが伝わってきます。


以前、50代で癌の末期のBさんが

「みんなが私を追い越していく」と言われたという話を思い出しました。


私たちは予後予測にそって、できるだけ進行が遅くなるように、苦痛がないように、急激に悪化しないようにといった観点からリスクマネジメントを行うのがある意味仕事でもあります。

でも、それはご本人からすると、確実な病気の進行を宣告されているようなもの。

先回りすればするほど、『私』を追い越していく。ことになるわけです。


ちょうどよい速さというものがあるならば、それに近づきたいと思います。


いつも明るく、一見病識が薄いようにも見えるAさんの心のうち。

少なくとも『わかったような気になる』ことだけはしないように。自分に言い聞かせました。


取り乱しもせず、怒った表情も見せないAさんの病気を通した戦いと、受け入れと、強さ、成長、あきらめ

いろんな感情を受け取りました。

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