野生ラベンダー精油の生産者とその思い
2016年から「Lien」として、オーナー石田佳奈子はフランスの野生ラベンダー精油、つまり”ホンモノ”の精油を日本の皆様に知ってほしいという思いから、ルソーさんご夫妻、ボイヤーさんご夫妻の精油を取り扱ってきました。初めてフランスへ渡ったオーナーが研修生として多くのことを学んだルソーさんご夫妻のお話と、オーナーの経験をご紹介させていただきます。ルソーさんご夫妻が作る精油に込められた思いを知るきっかけとなれば幸いです。
野生ラベンダーとの出会い
オーナーの石田は日本でアロマセラピストの資格を取得後、エッセンシャルオイルの原料となる植物をこの目で見て感じて、そして自分の納得のいく精油を自分で作るという夢を抱いてフランスに渡りました。ルソーご夫妻のところを尋ねた理由は、彼らが家族単位という小規模農家で原料から蒸留、製品化にいたるまで、全ての行程を自分達で行っていたからです。自分でいつか精油と蒸留水を生産できるようになり、彼らの様な6次産業化を目指すべく、フランスへ渡ったオーナーを、ルソーさんご夫妻は研修生として快く受け入れてくださったそうです。
研修1年目の夏に、突然「山の上で1週間程キャンプ生活を送るから食料などの支度をしておくように」と告げられます。当初、オーナーは彼らが野生ラベンダーを収穫に行く事を知らなかったのです。野生ラベンダーが存在し、そしてその自生しているラベンダーを収穫する人たちがいるという事をその時初めて知ったのでした。
研修1年目の夏に、突然「山の上で1週間程キャンプ生活を送るから食料などの支度をしておくように」と告げられます。当初、オーナーは彼らが野生ラベンダーを収穫に行く事を知らなかったのです。野生ラベンダーが存在し、そしてその自生しているラベンダーを収穫する人たちがいるという事をその時初めて知ったのでした。

野生ラベンダーの特徴、生産の背景
それに対し、syndicat des SIMPLESに加盟する農家は「植物と共存型の農業」を心がけています。例えばラベンダーの場合、8分咲きの時に精油としての収穫に適した時期を迎えます。しかしその少し前に、ラベンダーの蜜が一番多い時期になるため、蜜蜂の蜜の収集がひと段落するのを待ちます。なぜならラベンダーの中の蜜(糖分)が減ると精油成分が増えるからです。つまり双方にとって好都合なのです。更に、丁寧に刈り取られたラベンダーの苗は来年一回り大きく成長する事ができます。石田はルソーさんご夫妻の元での自身の経験を通して、自然を観察しながら農業をする事で、生産者も自然のサイクルの一部として存在するという事を、肌で感じることができたといいます。
野生ラベンダーことLavandula angstifolia種は標高900mから1800mに自生し、寒暖差が激しく厳しい環境、そして石灰質で石がゴロゴロ転がっているような水はけの良い土を好みます。フランス国内では南東の地域のみ、南は地中海から約200kmほど北上した所までその生息地を広げています。花穂は栽培種のものより色が薄く、香りが甘いのが特徴です。標高が高くなるにつれ酢酸リナリルという鎮静作用をもたらす成分の割合が多くなります。多いもので酢酸リナリルが50%以上という精油もあります。標高が高い所に自生するラベンダーは平地の栽培種よりも虫に集られる確率が減るため、ラベンダーの防衛機能を担う第二の主要成分リナロール(抗菌、抗真菌、抗ウイルス作用など)をあまり作らなくなるためだと言われています。
また野生種は栽培種よりも花穂が短く、栽培種に比べ収穫量が少ない上、手摘みで収穫しなければならないために、生産者が激減し入手が難しく高価な精油となっています。17世紀頃から香料の原料として野生ラベンダーの収穫は盛んになりましたが、1920年頃のラベンダーとラバンジンの農地化、機械管理化を境にその手仕事は姿を消していきました。現在に至っては、野生ラベンダーを収穫して蒸留する農家はフランス国内でも10軒にも満たないのではないでしょうか。
生産者の野生ラベンダー精油に対する思い
フランスには、この手摘みの文化と豊かな自然環境を次の世代に伝承していきたいという意思を持った農家が加入するオーガニックハーブ農業組合「syndicat des SIMPLES(サンディカディサンプレ)」があります。この組合は約200軒の家族単位の小規模農家から成っています。生産者同士でワークショップを開いたり、講習会などのイベントを行い、お互いの知識や情報をシェアしています。この組合に加入している全ての農家には生産物のクオリティー、労働環境、自然環境を守る義務があり、そのために例えば、収穫するどのハーブも手摘みされた物でならないなどの厳しい決まり事があります。
ルソーさんはそんな組合で、自然と共生する農業の在り方を提唱する第一人者です。ひと昔前は羊飼いが所有する山に咲くラベンダーを羊飼い自らが収穫し、その山のメンテナンスがしっかり出来ていたため、野生ラベンダーの生産量が豊富だったそうです。しかし今では収穫を行う羊飼いが減り、野生ラベンダーが減少傾向にあるそうです。
近代における機械での収穫は非常に便利で大量生産に向いています。ただし、茎はもちろん、枝の部分まで切ってしまうことになり、本来10年以上あるラベンダーの苗の寿命は明らかに縮みます。この場合、植物にある程度負担をかけて生産をする事になります。
それに対し、syndicat des SIMPLESに加盟する農家は「植物と共存型の農業」を心がけています。例えばラベンダーの場合、8分咲きの時に精油としての収穫に適した時期を迎えます。しかしその少し前に、ラベンダーの蜜が一番多い時期になるため、蜜蜂の蜜の収集がひと段落するのを待ちます。なぜならラベンダーの中の蜜(糖分)が減ると精油成分が増えるからです。つまり双方にとって好都合なのです。更に、丁寧に刈り取られたラベンダーの苗は来年一回り大きく成長する事ができます。石田はルソーさんご夫妻の元での自身の経験を通して、自然を観察しながら農業をする事で、生産者も自然のサイクルの一部として存在するという事を、肌で感じることができたといいます。

収穫時期
一人が収穫する量は一日当たり約40kgから70kg、炎天下で約10kmを歩いて行います。暑いので水分補給は1日に約2リットル。ペパーミントの蒸留水を入れたお水を飲んで作業に臨みます。熱中症など危ないと感じた時にはそのお水を頭から被ったりして工夫します。
フランスでは7月になると色々なハーブが収穫時期を迎えます。この時期はどの仕事を優先して行うか、生産者は頭を悩ませますが、植物たちは待ってくれません。ひたすら出来る事から取りかかり、気がついたら日が暮れて、倒れこむように床に着く毎日を過ごします。そしてこの時期、最も優先されるのが野生ラベンダーの収穫です。7月末から約10日間に渡って行う、生産者にとって1年の中で一番重要な大仕事です。この日が近づくと祭りの日が近づくように血が騒ぎ始めます。
収穫に使う道具はシンプル
収穫作業は車に食料やキャンプの道具を積み込み、ラベンダーが咲く1300mの山の天辺まで登ってベースキャンプを作るところから始まります。収穫に使う道具はとってもシンプルで、鎌とコットンシーツのみです。大掛かりな機械は一切使いません。一日の作業が終わると鎌を研いで手入れをしておきます。鎌を研ぐ事は、ラベンダーの苗を痛めないためにとても重要な仕事です。布のシーツを体に巻き付ける昔ながらのスタイルで、シーツに収穫したラベンダーを入れていきます。こうすることで両手が使え、収穫したラベンダーは布を通して呼吸し続けることができます。
収穫作業
毎朝、収穫前に準備体操をしてから作業に臨みます。一日に何千回と同じ収穫の動作を繰り返し、その動作が悪いために腰などを傷める事があるので、ルソーさんは正しい動作の形を教えてくれるのです。そしてこの作業はやっつけ仕事として行うのではなく、一つ一つの動きに集中して感覚を研ぎ澄ませる事ができる、言わば芸術なのです。
一人が収穫する量は一日当たり約40kgから70kg、炎天下で約10kmを歩いて行います。暑いので水分補給は1日に約2リットル。ペパーミントの蒸留水を入れたお水を飲んで作業に臨みます。熱中症など危ないと感じた時にはそのお水を頭から被ったりして工夫します。
毎年参加するラベンダー収穫の熟練者がそれぞれ「自己流」のやり方を持っており、それをお昼休憩や夜ご飯の時間に語り合い、若い新人に伝授します。夜は星空が美しく、それに見とれながらあっという間に眠りに着きます。そんな日々を過ごし、収穫したラベンダーが溜まってきたら一度下山して蒸留所に持ち帰り、収穫を続けるチームと蒸留作業に移るチームに分かれます。全ての収穫作業を終えると、皆んなで「今年もありがとう」とラベンダーにお礼をする儀式をしてから下山します。
収穫した野生ラベンダーが精油になるまで
山から下りるとすぐに蒸留作業に入ります。蒸留に関しても、収穫した場所から30分以内で戻れる場所で蒸留を行うと組合で決まっています。なぜなら、夏の一番暑い時期に収穫物を長時間かけて輸送すると鮮度が落ちるために、この決まりが設けられているのです。一般の精油生産業者の中には、生産効率を上げるために、1つの蒸留所に広範囲からトラックで原料を運ぶ場合があります。時には数時間も掛けて輸送されます。そうすると、発酵が始まり精油の成分が変化してしまうため、アロマセラピーに使えるグレードの精油は作れなくなってしまうのです。
収穫で疲れた体に鞭を打ち、最後の大事な錬金術の作業に入ります。蒸留の工程で良質な精油と蒸留水を作るには、ラベンダー、天然水、そして良質な蒸気が必要です。ルソーさんは薪で温めた湧き水から蒸気を作ります。つまり収穫する場所だけでなく、良質な水のある蒸留所の周りの環境なくして、本当に良いものは作れないのです。フランスで伝統的に使われている蒸留器は、熱伝導率が高い銅製のものが主流です。ルソーさんは全てご自身で設計したオリジナルの銅製蒸留器を使用しています。ルソーさんの場合は、500Lの蒸留器に約150kgのラベンダーを丁寧に敷き詰めます。
まずは乾燥が進んでいるラベンダーから入れていき、比較的フレッシュなものを重し代わりに最後に入れます。この作業は蒸気が満遍なく精油成分を気体化させるためにも、蒸気の通り道を無くすために丁寧に行います。アロマセラピーに使えるグレードの精油を作るために、温度や圧力に注意を払いながら、ひとつの成分も欠かさずに蒸留する事が私たち生産者の使命です。高温高圧で蒸留すれば採油率も増える上、短時間で蒸留できるので一見効率的ですが、それではクオリティは守る事ができません。蒸気を100度以下に保ちながら、蒸気を送り始めて約30分ほどすると精油と蒸留水が出てきます。ラベンダーの場合はその量に関係なく1時間半から2時間じっくり蒸留します。


終わりに
フランスで出会った全てのハーブ生産者は、野生植物が身近な環境に身を置き、仕事がライフスタイルそのものとなっていました。私たちLienfarmは製品の質を決める要素として、成分分析表だけでは見えて来ない部分も重要だと考えます。その中には汚染のない環境、植物、水、植物自体の生命力、そして生産者の意識の高さなどがあります。
ある種の使命感のようなものを持ってルソーさんは言います。「人間がトラクターの運転席に乗るようになり、土を離れてしまった事で、利益と便利さだけを追求するようになってしまった。大量生産、大量消費のための農法には、経済面において一時的な利益を生み出すかもしれない。しかし、手仕事、少量生産は長い目で見ると人類にとって持続可能な発展を遂げるための利益をもらたすだろう。私たちはただ製品を作っているのではない。ただ機械的に仕事をしているのではない。なぜこの仕事をしたいのか、自分にとってどんな意味があるのかを考えなければいけない。私たちは本来の姿をした植物と、それを必要とする消費者の架け橋をしているのだ。」
ある種の使命感のようなものを持ってルソーさんは言います。「人間がトラクターの運転席に乗るようになり、土を離れてしまった事で、利益と便利さだけを追求するようになってしまった。大量生産、大量消費のための農法には、経済面において一時的な利益を生み出すかもしれない。しかし、手仕事、少量生産は長い目で見ると人類にとって持続可能な発展を遂げるための利益をもらたすだろう。私たちはただ製品を作っているのではない。ただ機械的に仕事をしているのではない。なぜこの仕事をしたいのか、自分にとってどんな意味があるのかを考えなければいけない。私たちは本来の姿をした植物と、それを必要とする消費者の架け橋をしているのだ。」
ルソーさんは一度のシーズンに約2トンの野生ラベンダーを手摘みで収穫します。手作業なので収穫量が少ない上、効率化が求められる現代農業の視点からは評価も低く、体力を必要とする大変な仕事です。しかし、たとえ身体は疲れていても心は充足感で満ちています。生産者から消費者への地道な働きかけにより、最近フランスでは農業における手仕事の良さや丁寧さは改めて見直されつつあるように思います。オーガニック農法が最近スポットライトを浴びるようになったように、所謂「時代遅れ」の人々が実は最先端を行っているのかもしれません。
