合同会社LITRA

mail magazine backnumber

メールマガジン バックナンバー

【スナック灯台】場末の灯台守の本棚



飯寿司をアテにしながら、正月サービスの日本酒をチビリチビリやっていた。
ママはスナックの名前を「灯台」に変えて、「場末の灯台守」になったらしい。変わったのは店の名前と、ママの肩書だけではなかった。前は常連のボトルが並べられていた棚には、本が置いてある。

「そういえば、ボトルはどこに行ったの?」

「ボトルはお客さんに持って帰ってもらったの。よく考えたらボトルを入れるって、変わった仕組みよね。どこのお店が始めたのかしら?ボトルを入れることが、そのお店のお客として一人前みたいなのってあるわよね。
若いサラリーマンの子が、初めてボトルを入れるときって分かるのよ。ボトル童貞みたいな。何回か通ってくれた子にね、どうする?ボトル入れる?って聞いてみるのよ。そしたら、ちょっとどぎまぎして、じゃじゃぁお願いします。みたいな。かわいいのよね。この子のボトル童貞、私が奪っちゃったってね。」

自分もここでボトル童貞を奪われたことはスルーして、本のことを聞いてみた。

「で、なんで本が置いてあるの?」

「これ、誰の本だと思う?」

「えっ、ママのじゃないの?
 でも、いろんな本が置いてあるね。歴史小説もあれば、ビジネス書もあるし、それは詩集でしょ。
 ママって乱読家だったんだね。」

「違うわよ。わたしをそんなあばずれみたいに言うんじゃないの。
 でもかとちゃん、本に詳しそうね。うちの店ではこれからボトルじゃなくて、本を入れてもらうことにしたのよ。自分の読みたい本を入れてもらってもいいし、わたしがおススメすることもあるわよ。かとちゃんも、なんか本入れる?」

「ボトルじゃなくて、本を入れるスナックか。面白いね。」

「でしょでしょ。お客さんには自分の入れた本を、お店にいる間に読んでもらうの。」

「カラオケは歌ってもいいの?本を読んでいるお客さんの邪魔にならない?」

「カラオケはもちろんいいわよ。カラオケのないスナックなんて、水風呂のないサウナみたいなもんじゃない!
 でもね、ひとつだけルールを作ったの。おひとり様のみ入店可、2名様以上の団体様お断り。」

「仲間内で盛り上がりたいなら、他のお店にどうぞってわけね。」

「そういうこと。おひとり様専用だとね、みんないい大人だから、いいところに収まるのよ。
 それとね、これはルールってわけじゃないんだけど、わたしに読んだ本のことを話してくれたら嬉しいわ。」

「なら、ちょうどここ来る前に喫茶店で読んでた本でも読もうかな。
 なんなら、本、入れておこうかな?なんていうの?ボトルキープじゃなくて、ブックキープ?」

いまでは本棚になったカウンター後ろの棚から、細長い白いプレートに長い紐の付いたものをママが取り出して、マジックペンと一緒にテーブルに置いた。

「じゃあ、かとちゃん、このしおりに名前書いて。
 そっ、それでオッケーね。紐を本の中に入れて、プレートを背表紙にぶら下げてみて。
 そうそう、そういうこと。
 で、なんて本読んでるの?」

首からぶら下げていたメガネをかけて、ママが本を手に取った。

「続ける思考」井上新八

カラン、コロン、カラン。

ママと二人きりだった店に顔を出したのは、常連のサクマさんだった。
 
 


今日もここまでお読み頂き、

ありがとうございました!

メールマガジンへのご意見、ご感想は、

下記の「ご意見箱」より

お気軽にお寄せください。


ご意見箱


LITRAメールマガジン【スナック灯台】は、

こちらのURLから登録できます。

https://home.tsuku2.jp/merumaga_register.php?mlscd=0000213226


または、

下のQRコードを読み取ることでも

メールマガジンを登録することができます。

QRコードの読み取りには、

QRコード読み取り用のアプリではなく、

スマートフォンのカメラからお願いします。


-----------------------------------------

"Life Transitionをあなたと"

合同会社LITRA(リトラ)

E-mail: contact@litra-com.jp

Web: https://tsuku2.jp/litra-com

-----------------------------------------


メールマガジン バックナンバー

過去にお送りしたメールマガジンをバックナンバーとして公開しています。

メルマガを購読する