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【スナック灯台】新装開店



「あれ?!ママ、店辞めたのかな?」

正月明け、家で過ごすのも飽きてきたので、年明けの挨拶も兼ねていつものスナックに来てみたのだけど、看板が変わっていた。


TODAI?灯台ってことかな?
スナックというより、なんかおしゃれなダイニングバーみたいな看板だ。
この辺りも最近は若い方が個性的なお店をやるようになったし、もしかしてママも店を譲った?
恐る恐る扉を開けてみると、カランコロン、カランといつもの音が鳴った。

「あら、かとちゃん!明けましておめでとう!」

そこにはいつものように、セブンスターを吸いながらエプロン姿のママがいた。

「あぁ、良かった!表の看板変わってたから、ママ、店を辞めたのかと思ったよ。」

「びっくりしたでしょ。ちょっとね、変えてみたのよ。お店の中も変わったでしょ。」

常連たちのボトルが並べられていたカウンターの後ろの棚には、ぎっしりと本が並んでいる。

「なになに?どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、かとちゃんのせいよ。」

「えっ、おれなんかしたっけ?」

「この前、かとちゃん、久しぶりにお店に来てくれたじゃない。で、新しいお店の名前、閃いちゃったじゃない、わたし。スナック流れ星。」

「あっ、でも看板は「TODAI」だったけど。」

「せっかくだから、他にいい名前がないかちょっと考えてみたのよね。それで、決めたのが灯台。看板も自分でデザインしたのよ。」

「なんで灯台なの?」

いつもの角瓶のハイボールといつもとは違うお通しが出てきた。

「今年の年越しはね、久しぶりに生まれ故郷に帰ってみたの。このお通し食べてみて。うちの地元で正月に食べる飯寿司っていうの。」

コクのある鮭の旨味とキャベツの酸味が調和していて、シャキシャキした歯触りも楽しい。

「これうまいね!ママ、日本酒ってないよね?」

「そういうと思って、とっておきのお酒あるわよ。お正月だからサービスね。冷やでいいでしょ。」

米の旨味の残ったいいお酒だ。すっきりしすぎていなくて、かといってくどくもない。これ、酔うな。

「わたしの地元はね、もう実家もないから、温泉旅館に泊まってね。で、懐かしい場所をカメラを持って歩いてみたの。学校に行ってみたり、子どもの頃遊んでいた公園に行ってみたりね。
 でね、小学生の時に写生会で描いた灯台のことを思い出したのよ。アヨロ鼻灯台っていうんだけど、今はもう使われていないんだけど、灯台は保存されているのね。灯台はね、アイヌの人たちがお祈りをした場所に建てられているの。あの写真がそれよ。」

カラオケの映像を映すテレビの横に、モノクロームの灯台の写真が飾ってあった。その横には、緩やかに弧を描く水平線と空の写真も飾ってある。

「これ、ママが撮ったの?」

「どぉ?うまく撮れてるでしょ。これがアヨロ鼻灯台。で、そこから見える太平洋の写真よ。
 ほんと何十年ぶりかに行ってみたのよ。ゾクゾクしちゃった。」

「どういうこと?」

「やっぱ、聖地ってあるのね。
 灯台の手前にちょっとした広場があるんだけど、そこに立つとね、地面から空に抜けるようなゾクゾクが背骨を走るような感覚があるのよ。そこは昔、アイヌの人たちがお祈りをする場所だったらしいの。
 で、そのとき思ったの。新しいお店の名前、「灯台」にしよって。」

「場末の灯台ってわけね。」

「そう。わたしは場末の灯台守。」

 

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