言葉でダメなら体からのアプローチを試してみては?




言葉でダメなら、体からのアプローチを試してみては?


夏休みに入り、子どもと一緒に過ごす時間が増えると、

「何度言ったらわかるの!」
「また同じことをして!」
「早く宿題しなさい!」

そんな言葉が、つい増えてしまいませんか?


朝から食事の準備、片づけ、宿題の声かけ。
自分の仕事や予定もあるのに、子どもは思うように動いてくれない。

何度も言っているうちに声が大きくなり、あとになって、

「また怒ってしまった……」

と自己嫌悪に陥ることもあるかもしれません。


でも、言葉で伝えても子どもがすぐに動けないのは、お母さんの伝え方が悪いからでも、

子どもがわざと困らせているからでもない場合があります。

もしかすると、言葉を理解する前に、子どもの体が疲れや緊張でいっぱいになっているのかもしれません。




子どもは、分かっていても動けないことがある

私たち大人は、つい、

「言えば分かるはず」
「分かったならできるはず」

と考えてしまいます。

ところが、子どもの脳は発達の途中です。

注意を切り替える、感情を抑える、先の見通しを立てる、言葉を受け取って行動に移す——

こうした働きは、子どもから若者の時期にかけて少しずつ育っていきます。


そのため、遊びに夢中になっている子に、

「片づけて、手を洗って、宿題を出してからおやつにしてね」

と一度に伝えても、すべてを受け取って行動するのが難しいことがあります。

特に夏休みは、暑さや生活リズムの乱れ、睡眠不足、

いつもと違う予定などが重なり、子どもも大人も余裕を失いやすい時期です。


「言うことを聞かない」のではなく、疲れや緊張によって「聞ける状態ではない」こともあるのです。



言葉の前に、体は「安心できるか」を感じている

私は以前、中学校の教員をしていました。

当時は、「大切なことは、きちんと言葉で説明しなければ」と思っていました。

もちろん、言葉で伝えることは大切です。

けれど、その後、体や神経系から働きかける方法を学び、言葉だけでは届きにくいときがあることに気づきました。


人は言葉の内容だけでなく、


  • 声の大きさや速さ

  • 表情

  • 部屋の雰囲気

  • 相手との距離

  • 体へのやさしい刺激

  • 香りや温度

といった情報も、体全体で受け取っています。


お母さんが低く落ち着いた声で話したり、子どものそばでゆっくり呼吸したりすると、

それだけで子どもの表情がやわらぐことがあります。


反対に、大人が焦っていると、言葉では「大丈夫」と伝えていても、その緊張が声や表情、動きから伝わることがあります。

子どもを落ち着かせたいときほど、まず大人が自分の呼吸や体の状態に気づくことが大切なのです。



アロマハンドを通して気づいた「言葉以外のコミュニケーション」

現在、私は放課後等デイサービスで、小学生から高校生までの子どもたちと関わり、

アロマハンドトリートメントを行っています。


勉強を教えるわけでも、何かを指示するわけでもありません。

本人の希望を確認したうえで、香りを選び、手にやさしく触れる。


それだけの時間です。

ところが、この時間を通して、それまで距離のあった子や、少しやんちゃに見えた子とも、自然に関係を築けることがありました。

嗅覚から入った情報は、感情や記憶に関係する脳の領域と深く結びついています。


そのため香りを嗅いだ瞬間に、懐かしさを感じたり、気分が切り替わったりすることがあります。

また、本人が心地よいと感じるやさしい触れ合いは、安心感や信頼感につながることがあります。

「言うことを聞かせよう」とするのではなく、まず安心して一緒にいられる関係をつくる。

その土台ができてからのほうが、言葉も届きやすくなるのだと思います。

ただし、触れられるのが苦手な子もいます。無理に触れたり香りを使ったりせず、必ず本人の気持ちを尊重することが前提です。


頭で考える前に、体が覚えていること


武道の世界では、「考えるな、感じろ」という言葉がありますよね。

私自身、体術を学び、キックボクシングを始めてもうすぐ2年になります。

パンチが来たら、こう避ける。
キックが来たら、こう動く。

実際の動きの中では、頭で一つずつ考えている時間はありません。

練習を繰り返すことで、体が自然に反応するようになっていきます。

自転車も同じです。

一度乗り方を覚えると、「右足を動かして、次に左足を動かして」と考えなくても乗れます。

これは、繰り返しによって身についた「手続き記憶」と呼ばれるものです。

体を使った経験からは、力加減も学びます。


強く押しすぎれば相手は痛い。近づきすぎれば相手は身を引く。少し力を抜けば、相手も動きやすくなる。

これは、人間関係にも通じるように感じます。

「こうしなさい」と強く押し続けるほど、相手は抵抗したくなる。

少し力を抜き、相手の状態を感じ取ることで、関係が動き始めることがあります。



子どもを変える前に、お母さんの体を整える

私たちはつい、

「子どもにこうなってほしい」
「どうして分かってくれないの?」

と、相手を変えようとしてしまいます。

でも、コントロールされていると感じれば、大人でも子どもでも反発したくなるものです。

そんなときは、子どもを動かそうとする前に、お母さん自身の体を整えてみてください。


イライラしているときは、肩が上がり、歯を食いしばり、呼吸も浅くなっていることがあります。

その状態で一生懸命やさしく話そうとしても、声や表情には緊張がにじみます。

まずは一度、子どもから少し離れて、長く息を吐く。



好きな香りを嗅ぐ。
冷たい水を一口飲む。
肩を回す。
窓を開ける。
顔を洗う。
数分だけ別の部屋に移動する。


大切なのは、無理に「怒らないお母さん」になろうとすることではありません。

自分がいま緊張していることに気づき、少しずつ体を落ち着かせることです。

お母さんの体がゆるむと、声のトーンや表情、動きも変わります。

その変化を子どもが感じ取り、結果として子どもも落ち着きやすくなることがあります。

自分を癒すことは、自分勝手なことではありません。

お母さんが自分を整えることは、家族が安心できる環境をつくることにもつながっているのです。



夏休みに試してほしい、5つの体へのアプローチ

言葉が届かないと感じたら、次の方法を一つだけ試してみてください。


1.指示を増やす前に、一緒に深呼吸する

「落ち着きなさい」と言う代わりに、お母さんが先にゆっくり息を吐いてみます。

子どもに無理に深呼吸させなくても大丈夫です。大人がゆっくり呼吸する姿を見せるだけでも、場の空気が変わることがあります。


2.一度に伝えることを一つにする

「片づけて、手を洗って、宿題をして」ではなく、

「まず、このおもちゃを箱に入れよう」

と、一つだけ伝えます。

できたら次を伝えるほうが、子どもも動きやすくなります。


3.一緒に体を動かす

イライラしているときは、言葉を重ねるよりも、散歩する、伸びをする、

音楽に合わせて動くなど、体を使って気分を切り替える方法もあります。

親子で「10回ジャンプしたら宿題にしよう」と遊びにしてもよいでしょう。


4.本人が心地よい感覚を選べるようにする

冷たいタオル、クッション、静かな場所、好きな音楽、心地よい香りなど、落ち着ける方法は子どもによって違います。

大人が決めつけず、

「静かなところに行く?」
「お水を飲む?」
「少し動いてみる?」

と選択肢を渡してみてください。


5.触れるときは、必ず本人に確認する


背中をなでる、手を握る、ハグをするといった触れ合いで安心する子もいれば、触れられることで緊張する子もいます。


「背中をさすってもいい?」
「アロマする?」


と聞き、嫌がったときは触れないことも大切なコミュニケーションです。

アロマを使う場合も、香りの好みや体調、アレルギーなどに配慮し、子どもへの使用方法や濃度を確認してください。




言葉が届かない日は、誰かが悪いわけではありません

離婚をはじめ、人生の中でさまざまな失敗も経験し、50歳を過ぎてようやく気づいたことがあります。

学力や言葉による理解は大切です。


でも、体の感覚から学ぶことも、同じくらい大切です。


そして子どもを整える前に、大人自身が安心できる状態をつくることも必要です。

言葉が届かないときは、自分や子どもを責めないでください。


いまは「聞ける体の状態ではない」のかもしれません。


そんなときは、言葉を重ねる代わりに、まず一緒に休む。

呼吸する。体を動かす。本人が好む香りや心地よい感覚を取り入れる。


体から安心が伝わったあとに、短い言葉を届けてみてください。

体が「ここは安心」と感じたとき、言葉を受け取る余裕が生まれてくるのです。 🌿




ことば解説

● 前頭前野(ぜんとうぜんや)

脳の前方にあり、考える、判断する、感情や行動を調整する、見通しを立てるといった働きに関係しています。

子どもから若者の時期にかけて発達が続くため、子どもは大人と同じように気持ちや行動を調整できるとは限りません。


● 自律神経(じりつしんけい)

自分で細かく意識しなくても、心拍や呼吸、消化、体温などを調整している神経のしくみです。

緊張すると心拍が速くなり、安心すると呼吸や体の力がゆるむなど、ストレスや感情とも関係しています。


● オキシトシン

人との温かな関わりなどに関連して体内で働く物質です。

「幸せホルモン」「信頼ホルモン」と紹介されることもありますが、働きは状況や人間関係によって異なります。

触れれば必ず安心するわけではないため、本人が触れ合いを望んでいることが大切です。


● 手続き記憶(てつづききおく)

自転車、水泳、箸の使い方など、繰り返しによって身につき、

細かく考えなくても行えるようになった技能に関する記憶です。


● 感情の伝染(かんじょうのでんせん)

表情、声、姿勢などを通して、周囲の人の感情から影響を受ける現象です。

ただし、子どもの感情がすべてお母さんの状態で決まるわけではありません。

お母さんだけに責任があると考えず、親子それぞれの体調や環境にも目を向けることが大切です。



一覧 子どもも大人もはじめての体験に挑戦の夏休み