加藤眞悟

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半分、夢の中(No. 6)

こんにちは
みえないものをあらわす能の世界 メルマガ担当、加藤美紀です。

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

前回の明之会から、だいぶ経ちました。初めてお能をご覧になった方からも、よかったという感想をたくさん頂きました。演能の後、一言ご感想を頂くのは、とてもうれしいものです。ありがとうございました。

今回の「木賊」は、これまで見たなかで、一番すごかった・・・と感想を下さった方がいらっしゃいました。この方は、何度もお能をご覧になっている方です。

その方から、演能中、物音がしない、観客の視線が強くて、舞台に向かっているのがわかる、視線が見える気がした。という感想を頂きました。そして、序之舞で、寝ている人がいなかった!なんと!

・・・えっそんなこと?と思われるかもしれません。が、そうなんです。序之舞は、たしかにクライマックスなのですが、一番ゆっくりなところでもあるので、ふつう眠くなるんですね。

ふだん能楽堂で見所を見渡すと、序之舞でなくても寝ている方はチラホラいらっしゃいます。学生能のときなどは、横一列撃沈とか、ありました・・・

わたしたちが日常的に受け取るテンポとはまったくちがった雰囲気で、鼓の音色とかけ声に触れると、自然と心地よい眠りに誘われます。寝てもいいんだよ、とも言われています。良いクラシックを聴くと、眠くなるでしょ、と。

お客様のなかには、寝てしまって申し訳ないと恐縮する方もいらっしゃいますが、演者への義理立ては忘れて、ご自分の感覚に任せてよいそうです。

寝てるのか、目覚めているのか、身体は眠っているけど、感覚は起きている・・・みたいなときがありますよね。そんなときが、至福だったりします。まさに、ひとり夢幻能か?(夢幻能とは、世阿弥が確立した、夢か現実かわからないという能の舞台形式をいいます。)

舞台が濃密な空間であることが伝われば、何かいいものを観たな、と感じて頂ければ・・・それだけで、演者としては成功だそうです。先にご紹介したお客様は、その後、舞台の話が止まらず・・・うれしいことです。

それにしても、「木賊」が初めて観る能で、よかったと言えるなんて、(寝ないなんて)すごいなあと、わたしはひそかに思いました。

日々、能の楽しみ方をお伝えしておりますが、そのひとつに、「能の醍醐味は序之舞です。いかにそこを味わっていただくか」があります。寝ていない、ということは、木賊の序之舞を味わっていたのですね・・・明之会のお客様はすごいです。

・・・というわけで、今日は、半分夢の中でもいいそうですよ、というお話でした。

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