加藤眞悟

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序之舞(No.5)

こんにちは
メルマガ担当、加藤美紀です。

前回に続いて、「木賊」について、お話します。

能の中には、たいてい何首か和歌が詠まれています。まず、ベースになっているのが、こちらです。

「木賊刈る 園原山の木の間より 磨かれ出づる 秋の夜の月」
(園原山の木賊で磨かれたような澄んだ秋の月だなあ)

「木賊刈る」は、「園原(そのはら)」の枕詞で、秋の季語です。園原は、信濃の美しい山岳地帯の地名で、「伏屋(ふせや)」、「帚木(ははきぎ)」とともに、古代中世の歌枕です。

和歌を詠む人には、「木賊」「園原」「伏屋」「帚木」と聞けば、ああ、あの世界ね、と和歌がずらーっと浮かぶような、美しい日本の風景とセットになった歌心を誘う言葉らしいのですね。

こうして和歌を詠み、心に信濃の山々の絶景が浮かんだのかな、と想像できます。前半は、和歌って、すばらしい・・・和歌礼賛のように感じられます。

さて、和歌の中に「月」がでてきました。能の文脈では、よく「真如の月」がでてきて、仏教の「悟り」の比喩に使われています。真っ暗闇の夜道では、月明かりだけが頼りですからね。

この老翁は、「磨けや磨け身のためにも木賊刈りて、取ろうよや木賊刈りて取ろうよ」と言います。月のように澄んだ心になるために、悟りを得るために、自分の心を木賊で磨こう、と言うのです。

さらに、里人には、このおじいさんは子どもがさらわれたショックで時々おかしいことを言う、と言われています。見どころとなる序之舞では、わが子はこうして舞を舞ったものだ・・・と父親がわが子になりきって舞います。

能では、舞を舞うと、バージョン・アップすると聞いています。何かが変容する、昇華のような変化が起こります。木賊刈る→嘆き、極まる→序之舞=バージョン・アップ→再会と進行します。

心を木賊で磨いたから、変化が起こりました。心を研磨剤で磨くなんて、相当痛そうですよねって、比喩ですから、心が血を流すような痛みをともなう変革を示唆しているのかもしれません。

前回(No.4)、現代におきかえて、「息子から距離を置かれてしまった」お父さんの気持ちだと思って観ることもできるかなと書きました。そんな父の嘆きは、古今東西、普遍かもしれません。昔から、みんな苦労したのではないでしょうか・・・お父さんの心情、いかばかり・・・

ここで前回の問いに戻りたいと思います。・・・「父親の嘆き、それがなぜ木賊?」
なぜでしょうね?・・・みんなで考えよう、というのが、能の世界です。

感じる世界、出会いです。答えがあるとか、わかる、わからないではないので、そのまま味わってみてください。


★第23回 加藤眞悟『明之会』国立能楽堂
令和3年9月19日(日)14時〜17時20分頃
・S席 https://ticket.tsuku2.jp/eventsDetail.php?t=3&Ino=000010964700&ecd=04201287545210
・A席 https://ticket.tsuku2.jp/eventsDetail.php?t=3&Ino=000010964700&ecd=50027201152548
・B席 https://ticket.tsuku2.jp/eventsDetail.php?t=3&Ino=000010964700&ecd=22778022055810
・C席 https://ticket.tsuku2.jp/eventsDetail.php?t=3&Ino=000010964700&ecd=10590102532260


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・令和3年10月期 https://ticket.tsuku2.jp/eventsDetail.php?t=3&Ino=000010964700&ecd=00012208221058
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