mail magazine backnumber
メールマガジン バックナンバー
まなづるとダァリヤ 宮澤 賢治 https://shinjudo.net/collection
当社デザイナーREIKOは詩歌からインスパーヤーされた作品を多数発表しています。
写真は世界的写真家 増浦 行仁 氏
ジュエリー作品は下記のHPからご覧頂けます。https://shinjudo.net/collection/
『まなづるとダァリヤ』
クリソコーラ カレセドニィー
ヴェネチアン グラス
メレーダイアモンド
K18/Pt900 ブローチ&ペンダント
当社デザイナーは詩歌からインスパーヤーされた作品を多数発表しています。この作品の元になっている宮澤賢治氏の詩もお楽しみ下さい。
まなづるとダァリヤ 宮澤 賢治 --- 抜粋
くだものの畑の丘のいただきに、ひまはりぐらゐせいの高い、黄色なダァリヤの
花が二本と、まだたけ高く、赤い大きな花をつけた一本のダァリヤの花がありました。
この赤いダァリヤは花の女王にならうと思ってゐました。
やがて太陽は落ち、黄水晶の薄明穹も沈み、星が光りそめ、空は青黒い淵になりました。
「ピートリリ、ピートリリ。」と鳴いて、その星あかりの下を、まなづるの黒い影がかけて行きました。
「まなづるさん。あたしずゐぶんきれいでせう。」赤いダァリヤが云ひました。
「ああきれいだよ。赤くってねぇ。」
星はめぐり、金星の終りの歌で、そらはすっかり銀色になり、夜があけました。
日光は今朝はかがやくコハクの波です。
「まあ、あなたの美しいこと。後光は昨日の五倍も大きくなってるわ。」
「ほんたうに眼もさめるやうなのよ。あの梨の木まであなたの光が行ってますわ。」
「ええ、それはさうよ。だってつまらないわ。誰もまだあたしを女王さまだとは云はないんだから。」
そこで黄色なダァリヤは、さびしく顔を見合せて、それから西の群青の山脈に
その大きな瞳を投げました。
夜があけかかり、その桔梗色の薄明の中で、黄色なダァリヤは、赤い花を一
寸見ましたが、急に何か恐さうに顔を見合せてしまって、一ことも物を云ひませんでした。
赤いダァリヤが叫びました「ほんたうにいらいらするってないわ。今朝はあたしはどんなに見えてゐるの。」
一つの黄色なダァリヤが、おづおづしながら云ひました。
「きっとまっ赤なんでせうね。だけどあたしらには前のやうに赤く見えないわ。」
も一つの黄色なダァリヤが、もぢもぢしながら云ひました。
「あたしたちにだけさう見えるのよ。ね。気にかけないで下さいね。あたしたちには
何だかあなたに黒いぶちぶちができたやうに見えますわ。」
「あらっ。よして下さいよ。縁起でもないわ。」
夜があけはじめました。その青白いリンゴの匂のするうすあかりの中で、赤いダァリヤが云ひました。
「ね。あたし、今日はどんなに見えて。早く云って下さいな。」
黄色なダァリヤは、いくら赤いダァリヤを見ようとしても、ふらふらしたうすぐろいものが
あるだけでした。「まだ夜があけないからわかりませんわ。」
赤いダァリヤはまるで泣きさうになりました。
そのとき顔の黄いろに尖ったせいの低い変な三角の帽子をかぶった人がポケットに
手を入れてやって来ました。そしてダァリヤの花を見て叫びました。
「あっこれだ。これがおれたちの親方の紋だ。」そしてポキリと枝を折りました。
赤いダァリヤはぐったりとなってその手のなかに入って行きました。
「どこへいらっしゃるのよ。どこへいらっしゃるのよ。
あたしにつかまって下さいな。どこへいらっしゃるのよ。」
二つのダァリヤも、たまらずしくりあげながら叫びました。遠くからかすかに赤いダァリヤの
声がしました。その声もはるかに遠くなり、今は丘のふもとのやまならしの梢のさやぎにまぎれました。
そして黄色なダァリヤの涙の中でギラギラの太陽はのぼりました。
当社デザイナーREIKOは詩歌からインスパーヤーされた作品を多数発表しています。
中でも宮澤賢治氏からのジュエリー作品が多く、12の作品があります。氏の詩や童話の中には星々と共に多くの宝石が煌めいています。
ジュエリー作品の元になっている宮澤賢治氏の詩もお楽しみ下さい。
なお宮澤賢治文学をテーマにした作品の制作にあたり、一九九六年三月十七日、まだ雪残る花巻の林風舎に宮澤清六さんをお訪ねしました。氏は賢治の実弟で、賢治の死後、世間に広く宮澤賢治の文学を知らしめた方です。当時九十歳だった氏は、『冬と銀河ステーション』の詩をテーマにした弊社のジュエリーを興味深く手に取って見て下さいました。
そして林風舎代表・宮澤和樹氏(清六氏お孫さん)と共に、宮澤賢治文学をテーマにして作品を制作することを快く良く承諾して下さいました。
その後、作品が出来上がるたびに氏には御報告をさせて頂きました。
また日本の英文詩の第一人者の東洋大学文学部名誉教授・郡山直先生に賢治の詩を英訳して頂くことが出来ました。先生の英文詩は英語圏の国々の小、中、高の教科書二十六点に掲載され、“世界詩人会議”に日本の代表として出席される方です。
先生に英訳して頂いた12の賢治氏の詩は、林風舎・宮澤和樹氏を通じて、宮澤賢治記念館に寄贈させて頂きました。和樹氏のお父様でいらっしゃいます、宮澤賢治記念館の当時の宮澤雄造館長から『英訳文書は当館では資料としまして、正式にお引き受け致します。』との丁重なお手紙を頂きました。
素晴らし方々との出会いに心から感謝をしております。