AbiアートLab|感じる力を育むアートの実験室|神奈川県逗子

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「見えたとおりに描く」――中学時代の目からうろこの体験

私には3人も画家の身内がいながら
絵を教わったことがほとんどありませんでした。
ただ一度だけ、強く印象に残る体験があります。

それは中学3年の冬休み、高校受験を控えた時期のことです。
受験校には鉛筆デッサンと水彩画の実技試験がありました。
実はその高校、私は中学1年の頃から行きたいと思っていたのですが、
親にその思いを伝えたのは10月ごろ。
普通の受験生に比べてかなり遅いスタートでした。

慌てた母は、「じゃあ描けるようにならないと!」と、私をアトリエに“突っ込み”
朝から晩まで絵を描く集中訓練が始まりました。
朝にアトリエに入り、食事とトイレ以外は出てこられないほどの時間。
午前は午前の光で、午後は午後の光で、夜は電気の光で――
一日に3つの作品を描く日々です。

どう描いていいのか分からない私を残し、
母は「見えたとおりに描くのよ。色は“置く”の。塗るんじゃないの」とだけ言って
さっと出て行ってしまいます。そんな日々が半月ほど続きました。


あるとき、チェリー酒の空き瓶、緑色で独特な形をしたガラス瓶
そして花束を描いていた時のことです。
見えた色をそのまま「置く」ようにしたところ
ガラス瓶が透明に見えるようになったのです。
作品を逆さまにしたり、少し離れて眺めて形の歪みに気づくことも覚えました。


自分の目なのに「見えていなかった部分」
あるいは「見すぎてしまって細かくなりすぎる部分」があることにも気づきました。
つまり「見えたとおりに描く」とは、
自分の思い込みを取り払うこと。
素直になること。
そして無心になることだったのです。


この体験は、私に「多様な目」を与えてくれました。
今でも、その学びが日々の観察や表現の根本に息づいています。

🌱 みなさまは、ご自分のどんな「目」に気づいていますか?

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