書道を大人になってから始めても遅くない理由とは?

「大人になってから始めても、もう遅いですよね?

これは、私が「書道をしている」とお話しすると本当によく聞かれる質問です。

結論から言うと、書道は大人になってから始めてもまったく遅くありません。

むしろ、大人だからこそ味わえる深みや楽しさがたくさんあると感じています。


■ 感性が育っているからこそ、筆が応えてくれる

子どもの頃は「正しく書くこと」が中心になりがちですが、

大人になると「どう書きたいか」「どんな印象を与えたいか」といった“自分の美意識”が自然と育っています。

筆は、その感性にとても正直に応えてくれる道具です。

少しの力の入り方、呼吸のタイミング、心の落ち着き——どれも線に表れるからこそ、自分の心と向き合う時間になります。


■ 目的が明確だから上達が早い

大人の方は「自分の名前をきれいに書けるようになりたい」「ご祝儀袋やのし袋を自信をもって書きたい」など、

明確な目的を持って始められる方が多いです。

目的がはっきりしていると上達のスピードも早く、練習を続けるうちに「もっとこう書いてみたい」という探求心が芽生えてきます。

その変化を間近で見られるのが、教える立場としての一番の喜びです。


■ 年齢を重ねるほどに、書に“味わい”が生まれる

書道はスポーツのように体力勝負ではありません。

年齢を重ねるごとに、線の深みや余白の美しさが増していく、いわば“熟成していく芸術”です。

その人の人生経験や心の状態が自然と文字ににじみ出るので、同じ文字でも書く人によってまったく違う表情になります。

だからこそ、大人から始める書道には「その人にしか書けない味」があるのです。


■ 「始めたい」と思った瞬間が、最良のタイミング

書道に“遅い”ということはありません。大切なのは「やってみたい」と思ったその気持ちです。

筆を持つと、不思議と心が整っていきます。

一文字一文字に息を合わせて書くことで、慌ただしい日常の中に静かな時間が生まれる。

それが、書道が多くの人に愛され続ける理由のひとつです。


■ まとめ

大人になってからの書道は、上手くなることが目的ではなく、

自分の心を丁寧に整える時間を持つことが大きな価値だと感じています。

私自身がそうであったように、「名前をきれいに書けるようになりたい」と思ったところから、

人生が少しずつ豊かになっていく——書道には、そんな力があります。


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