おみや本舗

『路地裏のゲロ』。鑑賞前のまえがき。​​
 
 
「今度よ、村越達に舞台の台本書いてやったんだよ。お前、ちょっと
見てくれよ」
 
 
12年程前、赤坂にあるテレビ局の楽屋にて、いきなり殿はそう切り出すと、どばっと束になった、‘‘台本 ‘‘ を渡して来たのです。
 
ん?舞台の台本?映画の台本でなく、殿が舞台の台本?
 
殿と舞台。すなわち演劇が僕にはどうしても結びつかず、頭の中で?が激しく飛び散らかっていました。
 
「殿。映画じゃなくて舞台ですか?舞台の台本ですか?」
「おう。舞台だよ。男二人がただ愚痴を言い合う、二人芝居だよ」
 
二人芝居!?
増々?が増すばかり。
 
で、冒頭の殿の発言に少しばかり説明を加えると、
「村越達のために書いてやった・・・」ですが、村越とは、
当時殿の運転手をしていた末端の弟子であり、彼はお笑いコンビを組んでいました。殿はその弟子のコンビのために、二人芝居の台本いきなり書きあげたというわけです。なんて優しい師匠でしょう。
 
そんな、優しさ大爆発の台本をその場で確認すると、表紙には『路地裏のゲロ』と記してある。
 
お!いいタイトル。殿っぽいじゃん!!
タイトルからすでに ‘‘面白臭‘‘ が漂っているではありませんか。
 
ちなみに、殿は絵をお描きになる。
そういった自身のアートワークを、「便所の落書き」と公言している。
 
「便所の落書き」。そして「路地裏のゲロ」。どっちもいい!凄くいい。
 
足立区出身の殿。浅草で修行を積んだ殿。そんな殿のバックボーンがしっかりと主張している素敵なタイトルに、台本を読み込む前に、
すでに天才・ビートたけしが初めて書いた舞台台本にワクワクが止まらず、
「殿。ちゃんと読みたいので、一度家に持ち帰って、読ませてもらってもいいですか?」
「おう。それやるよ」
「ありがとうごいます!」
 
その日、殿との仕事終わりで深夜に帰宅した私は、早々に「路地裏のゲロ」を読んだ。笑いながら、ニヤニヤしながら読んだ。
そして、「あいつら、羨ましいな!」と大きな一人事をもらした。
あいつらとは?「路地裏のゲロ」をやる、後輩の村越達のこと。
 
「殿。めちゃくちゃ面白かったです!村越達が羨ましいです!!」
翌日、真っ直ぐな感想を殿にお伝えすると、
「そうか。なかなかいいか?じゃーよ、それにギャグを足していいから、村越達に協力してやってくれ」と、殿はさらっと、‘‘あとは好きにやれ‘‘といった感じで指示を出すと、「今度の映画だけどよ、〇×@△#・・・」と、次の映画の構想を語り出したのです。
天才は常に、次から次。ネクストなんです。
 
その後、「路地裏のゲロ」は、村越達が小さな小屋で一度やったきり、もったいない事にひっそりと忘れられていました。
 
そんな、大変貴重な‘‘ビートたけし初の舞台台本‘‘を思い出した私は、
5年程前、後輩の村越に、「路地裏のゲロって、またやる感じ?」そう確認すると、
「いえ。もうコンビも解散してますし、やりません」
「そう。じゃー殿がOKしたら、あれ、オレがやってもいい?」
「はい。僕は全然いいですよ。だって殿の物ですから」
「サンキュー。じゃー殿に聞いてみるわ」
 
で、早々に
「殿、殿が以前村越達に書いた、舞台の台本『路地裏のゲロ』。
あれ、寝かせておくのはもったいですよ。もしよろしけば、自分にやらせてもらえませんか?」
「おう。あれか。そうだな。もったいねーな。おう、やれやれ」
と、実にあっさりとOKが出たのです。
 
そして準備に入った途端、世はコロナで制作がストップ。
そういったわけで、やっと今年の早春に開催することあいなりました。
 
この舞台、私的には大好物である殿の映画、「キッズリターン」。
あの映画の中の主人公、マサルとシンジ。その二人が通っていた高校のどこかにいた二人が、歳を重ね、路地裏で愚痴る物語。そんな裏テーマを少しばかり意識して演出致します。いみじくも、一緒にやるお宮の松は、「キッズリターン」に出演していた男ですし。
 
なにはともあれ、ビートたけし初の舞台台本「路地裏のゲロ」。
この機会に、是非!
 
 
アル北郷