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取引関係のあった大手企業に亀裂!?何が起こったのか?

こんにちは。
商標登録のサポートを専門とする”弁理士”の金森です!


今回は、
近年では珍しい大手企業同士の”特許訴訟”に関するトピックをお届けします。


※なお本来、金森は商標登録を専門としておりますが、
 特許のお仕事をやらせていただくこともございます。


前回同様、弊所(K-FOREST知財事務所)でクライアント様にお送りしている
「K-FOREST通信」の内容を特別にお送りさせていただくものになります。


その前に、
企業が”特許”を取得する最も大きな理由をお話ししたいと思います。


”特許”は、
これまでにない新規、つまり【新しい】技術(発明)であって、
かつ【画期的な】技術に対して、


とても厳しい審査を経て、
(最短でも1年以上の歳月を経て)
付与されるものです。


そして、審査で”合格”(≒特許査定)を得られた発明は
所定の登録料を支払って頂くことで、
晴れて、”特許権”という強力な権利が成立します。


”特許権”を取得することによって、
この特許権に関する発明(「特許発明」といいます。)
について、特許権を取得した企業ないし個人(「特許権者」といいます。)
が独占的に利用できるという効力を得ることができます。


特許権を取得している特許権者が
自らの特許発明について独占的に利用する権利を得ることになりますので、


特許発明と似たような技術をライバル企業が利用するのを
排除することができるわけです。


つまりは、特許発明を取得することで、同業他社に対する”参入障壁”を構築することが
でき、これによって、同業者間において優位な立場を構築することができるわけです。


しかし、一見して強力に見える特許権でも、
弱点があります。。


今回のお話しでは、その特許権を取得した大手企業が
その特許権によっても思い通りにならなかった事件をご紹介します。


タイトルは、
“日本製鉄とトヨタとの特許訴訟の顛末”
です。


日本製鉄とトヨタ自動車という二大大手企業の名前を
聴いたことがある方は多いと思います。


一体、両者に何があったのか?
を以下にお届けします。


1.日本製鉄VSトヨタ自動車の特許訴訟

 2021年10月14日、最大手の鉄鋼メーカーの日本製鉄株式会社(以下「日本製鉄」と略称。)が、
自動車最大手のトヨタ自動車(以下「トヨタ」と略称。)を特許侵害 で、
東京地裁に提訴した事件は記憶に新しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。


 事件となった日本製鉄の特許は「無方向性電磁鋼板」 という発明に関するものです。
 「無方向性電磁鋼板」の用途としては、トヨタが販売する「プリウス」などのHEV車に使用されている
 モーターや、トランスなどです。従来の電磁鋼板に比べて、格段に損失が少ないそうです。


 要するに、従来品より性能が格段に優れているということです。
 これを実現しているのが、日本製鉄の特許技術となります。


 トヨタは、日本製鉄の開発した「無方向性電磁鋼板」と同様の技術が使われているとされる「電磁鋼板」を
 中国の「宝山鋼鉄」(以下「宝山」と略称。)から仕入れていました。


 この行為に対して、日本製鉄側がトヨタ及び宝山を特許侵害で提訴したのが今回の事件です。


2.訴訟の行方は急転直下の展開へ!?

  私の目に大きく飛び込んできたのは、2023年11月3日の日経新聞の1面の記事でした。
 その記事のタイトルは『日鉄、トヨタとの訴訟放棄(←日本経済新聞11月3日金曜日の朝刊第1面より)』
 というものでした。


 この記事の中で、日本製鉄(以下「日鉄」と略称。)がなぜ訴訟を放棄したのかについて書かれていましたので
 一部抜粋させていただきます。


 “日鉄は、今回の請求放棄について、提訴後にカーボンニュートラルに向けて各国での競争が激しくなり自動車と鉄鋼の両業界が強固に協力していくことが必要になったと環境の変化を指摘。その上で「係争の継続は日本の産業競争力の強化にとって好ましいものではない」とした。”


 一見、もっともな理由に見えますが、訴訟放棄の真の理由は別のところにあったようです。
 その点について、今回の日経新聞の3面に詳しく説明されていました。


 その一つの理由が次のように説明されています。
・日鉄は本件特許における電磁鋼板の磁気特性を独自の数式で特定した「パラメータ特許」の侵害を主張していた。
・自動車のモーター用に加工する過程で磁気特性は変化する。
・トヨタが車に搭載するために加工した部材が特許侵害していると立証できなかった可能性がある。


 右の記事に掲載されている図を見ても、トヨタ側の主張として
「(日鉄の)証拠品はトヨタが使う専用鋼板とは別物」
「仮に日鉄がトヨタ車を分解して侵害を主張していても意味がない。加工で特性は変化し得る」と、
このまま訴訟を継続しても日鉄側にとって不利な展開になりそうな予感がします。


 また、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、
 訴訟において特許侵害を主張する特許権者に対する被疑侵害者の対向措置として、
 “特許無効審判”という制度がありますが、
 今回、トヨタ側も例外なく日鉄の特許が無効であるとして無効審判を請求しました。


 この特許無効審判は、一旦成立した特許発明の有効性を事後的に争うもので、
 特許侵害訴訟を提起された相手方の常套手段となります。


 特許無効審判を提起された相手側(本件で言えば日鉄)も反論の余地はありますが、
 仮にトヨタ側の主張が認められ、特許が無効になってしまえば、
 日鉄としては今回の無方向性電磁鋼板の被疑侵害品を製造したとされる宝山鋼鉄へも
 提起している訴訟が意味をなさなくなってしまいます。


 上記から『日鉄側は判決を避けたかったのではないか』ということが上記記事内でも説明されています。


3.中国・宝山鋼鉄との訴訟のゆくえ

 日鉄がトヨタとの訴訟の決着を避けた理由は、
 今回の被疑侵害品を製造したとされている宝山鋼鉄との訴訟を継続する上で重要な意味があるためです。


 今回の特許に関しては、日鉄は中国における特許を取得していません。
 実は、日本国内で特許を取得していても「属地主義の原則 」から、
 日本国の特許を根拠に中国など他国に対して特許権侵害を主張することはできません。

※中国でも特許権を主張するためには、中国特許法のもとで成立し得る特許権を取得しておかなければなりません。


  しかしながら、近年『「中国など外国企業が日本向けに特許侵害品を提供する行為を日本の裁判所で裁けるか」
 という重要論点が争われているため(日本経済新聞2023.11.3朝刊第3面より)』、
 日鉄は宝山鋼鉄との訴訟については継続の路線を崩していません。
 
 この日鉄の判断は、同社のコア技術である「無方向性電磁鋼板」技術を守るためには当然の判断だと思います。


 いかがでしたでしょうか?
 特許権を取得することはモノづくりをしている企業にとっては重要な意味を有するところ、
 一方で、その特許権にも弱点(今回で言えば、一旦成立した特許が無効とされてしまう場合もある)
 があるのです。

 
 結局は、取得した特許権をいかに利用するかということに尽きるのかもしれませんが、
 他社牽制の意味でも、自社の大切な虎の子の技術を守るためにも、できるだけ多くの特許権の取得を
 検討されるのが自立した企業への一歩なのかもしれません。


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