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ブラザーズ珈琲物語17

ブラザーズ珈琲物語17
アベノハルカス出店2
さて当日の朝を迎えた。

慣れてない大阪の道ではあったけれども何とか金曜日朝 8時には到着した。

オープンの準備があるのである。

開店は10時なので、2時間かけて準備をするのである。

ゆっくり出来ると思っていたが、2時間はあっという間に過ぎていった。

10時になりドアが開き、お客様たちはポツポツとこのを売り場に入ってきた。

お客様はこの売り場に入るや否や必要なものを真っ先に買い求める。

鳥取県の米子から来たブラザーズ珈琲には目もくれない。

当然のことかなと思い直してお客様の買い物が一段落するタイミングを待っていた。

内心早く買い物を済ませて、このブラザーズ珈琲のコーナーに来て飛ぶように売れたらいいなという気持ちで準備しておいた。

ところが、購買力に不足のないアベノハルカスである、飛ぶように売れるはずだと思っていた。

が、なかなか買ってくれないのである。みんなスルーしていてしまう。

鳥取県から応援に駆けつけてくれた職員も不思議だなと思い怪訝な顔をしながらも熱心に我々をサポートしてくれた。

これは本当にありがたいことだと感じた。 なんせ右も左も分からない、況してや田舎の店から初めてこのような超一流の売り場に来たので少々緊張や戸惑いがあったのかなとも思ったが、サポートの職員も何だか不安そうであった。

それでも我々を励ましくれたので、仕事とはいえ有難い事であった。

そうこうしている内に、2時間くらいはあっという間に過ぎていった。

焦ってはだめだと思い直していると、お客様が一人、二人と来られるようになった。

鳥取県の米子市から来ましたと言ってコーヒーの試飲そして、この献上品のブラザーズ珈琲を説明していくと、じゃあと言って1袋2袋と少しずつ売れていった。

でも、想像したようには伸びなかった。

午後になると関西圏の友人知人またはfacebookの友達が訪ねて来て励ましてくれた。

中には家族で、友人知人で来て買ってくれた。

またこのような時にわざわざ遠い所からを私が出店しているという噂を聞き駆けつけてくれた元職場の先輩は最高級品のハワイコナ珈琲7020円を買ってくれた。

そんなに親しい方ではなかったが、思わず涙ぐんでしまった。

何とありがたいことか。

しかし、なかなかそれ以降そういう感謝の気持ちとは裏腹に売り上げが伸び悩み、沈滞ムードが昼、午後と続いていった。

そのうちに一緒に米子から大阪に来て娘のところに預けてきたダウン症の障害を持つ忠信も娘と共に 訪ねてきた。

そして、親がコーヒーの販売、試飲、説明をしている姿を見ながら不思議なものを見ているような目で見つめていた 。

お客様の数は午後になると徐々に増えて来たし、ポツポツと売れてきたがなかなか売り上げには結びつかず試飲だけで終わることも多かった 。

子供達は、父親も母親も一生懸命に商品説明または試飲を勧めている姿を見ながら自分たちも何か手伝いをしたいという気持ちに成ったのだろう。

まぁーサクラのつもりだろうか、試飲などして「あ~美味しい」など言って応援してくれた。

しかし、それでもなかなか販売が伸びなかった。

そのように澱んだ空気が漂っているような感じがしていた時、どいう事か障害の故に言葉も殆ど喋れない、普通の人が聞いても良く わからないダウン症の息子が何を思ったのか、そのざわめく売り場のフロアの隅から隅まで響き渡るような大きな声で『どうぉー、ぞぉー』と 叫んだのである。

その間わずか数秒だったと思うが一瞬間 空気が止り、時間が止まったようだった。

そのフロアーに居られたお客様方は、 その声に圧倒され一瞬動きが止まってしまったのである 。

一番驚いたのは、われわれである。

何故、そんなに大きな声を出すのかと、その瞬間何が起こったのか分らなかった。

多分、 親が一生懸命に頑張っているのに、販売している姿を見ながら、なかなか買ってくれないお客様、そのような状況を見て思い余り大きな発声になっただろうと思った。

親が一生懸命無心になっている姿を見て障害者の子供までも応援してくれる。

何と有難い事かと感謝したものである 。それからどんどんとお客様の流れが変わってきた事は事実であった。

そのような出来事を経験しながら初めてのアベノハルカス出店第一日目の売上もまずまずの売上になっていた。けれどもそれ以上に心が満たされた一日だった。

第2日目 土曜日であったが、この日がこの3日間の勝負どころであると気を引き締めて出発した 。

10時になってオープンの鐘が鳴ると 昨日とは全く雰囲気が違っていた。

ドアが開いた途端まるでデモ行進のように入り口に並び オープンと同時に滝のようにこの売り場に来たのである。

みんな財布を持って来て押し寄せる。

そして1個7020円のハワイコナ珈琲を2個持って行く。

「あのぉ~それチョット高いものですけどぉ~」と言うと、「分かっているよ、此処で払うの?」「いや、レジでお願いします。」

このような今までにないお客様との問答が忘れられない。

準備していたコーヒーが飛ぶように売れていったのである。

まさに大阪の購買力ここに在り。

アベノハルカスの購買力を実感したものである。

この2日目は 本当に売り上げが進み 、疲れもピークに達したが売上目標に近づいてへ行ったということにおいては満足のいく1日であった。

その疲れも心地よい疲れとなって2日目を終えることができた 。

何とこの1日の売り上げは鳥取の米子ブラザーズ珈琲店の1ヶ月分以上の売り上げとなったのである。  

流石は大阪である。

3日目もこれは日曜日であったので 昨日同様多くのお客様方が訪ねて来られ納得のいく1日となったのである。


今から振り返ると 本当に準備段階、または搬入の時の厳しさは忘れることができないが良き思い出となった。

この3日間の販売でさまざまなことを感じることができた 。

先ずは、 その準備のために疲労困憊して疲れがピークになり限界を超えてしまった家内は、その後半年間は疲れが取れず寝込んでしまったのである 。

本当に可哀そうなことをしたものだ。

それでもこの社長である夫を支えこの店をなんとか成功させる為に、やり繰り算段切り盛りして来た決意が滲み出た三日間であった。

また、子供達までもが我々を応援してくれたことには、この事業を成功させないといけないという再決意させられた期間でもあった。

経験不足の者を鳥取県の商工労働部の職員たちが、 ブラザーズ珈琲を日本一の売り場に出させてくれたことは実にありがたく感じたものである。

ブラザーズ珈琲として非常に良い経験をさせてさせて貰った。

振り返るとこの近鉄百貨店の創業者が鳥取県出身だと言うことでその縁があり、出店が出来たこともあるとも思う。

やはり人間というものは、どのような縁でここに至って現在があるのかということを思う時に、また我々から未来に向けて様々な縁が出発して行くので、縁を繋いでいきそれを伸ばしていきたいものだと感じたのであった。

この度はそのようにして 経験を積むことができたので、その後、様々な出店イベントなどに参加しても戸惑うことなくこれを処理出来たことはこの度の経験が生かされたものだと思った。

しかし、 あの疲労困憊の疲れだけはもう沢山二度と味わいたくないこの期間であった。

また この 経験がそれ以降の経営企画に生かされたことは良き経験であった。

厳しい時に応援してくれた仲間たち、友人たち、または先輩たちが訪ねて応援してくれたことはいつまでも忘れることができない。

このような多くの方々支えによって、応援によって今があることを感じたものである。 これからはこの日を忘れないで、また子供達にもその思いを伝えていきたいと思うのである 。

決して自分1人で生きているのでもなく、生きていけるものでもないことを知れば常に感謝の心が必要だと思ったものであった。

「 情けは人の為ならず」という諺のように常に人々の為に世のために生きて行くことによって、結局は周り回って恩恵を受けるのが世の常であることを悟ったものである。

そして、法則は変わらないものであることを確信するに至ったのである。

昔、私の祖母が「短期は損気」と言う話をしていた。

何の意味かわからなかったが、 この歳になってみて年寄りたちが話していたそのことの意味が分かってくるのである 。

多くの人の話を聞くと結局は、それが自ら自身の心の栄養素になり、 知恵となり、そして力となり前進するための 原動力となっていくことを感じたのである。

経験不足で不安な状況がこのような経験を積んで自信確信になっていくのだということを実感したものである。

当に商売というと金儲けだけだと感じてきたものであるが決してそうではなく、 日本のこの文化は商道と言うように、 商売の中に人間を磨く人間の心の修行が込められていた。

これが日本の経済力の土台となっていることを感じたものである。

わずかながらの 些細なこの商売であるけれどもこのような中に本当に金儲、金儲け以上のものがあったということが分かった瞬間であった。

この仕事というものはありがたい事に、日本人日本文化はこのようにして引き継がれて来たことを感じたのである 。

この大阪のアベノハルカス出店3日路程がその後の教訓となり確信に近づいたことを思い出したのである。

ありがとうございました 。

令和3年2月13日

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