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『 うちの庭 』。西蓮寺です。

夜に猪がやって来ているようです。裏山の畑はもちろん、境内、中庭まで入って来て苔土を耕す様に堀りまわし、何とこの度よりによって日頃愛でている「千両」まで掘り散らかしました。 (ツクツクショップページのギャラリーに掘られた写真、アップしています。)   どうにも我慢ならんところ、いったいどういうつもりか聞いてみました。

私「こら、いったいどういうつもりだ。周りは山だらけ、餌が欲しいなら掘るところはいくらでもあるだろうに何でわざわざうちの大事な庭を掘る!」
猪「おはようございます。何やら随分ご立腹の様子。うちの庭?そうでしたか、あなたの庭。そう言われましても何のことやら、わたしにとってはただの土、生活の場所。」
私「いやいや、見れば分かるだろう。庭、お寺の庭。手入れしている大事なうちの庭。今まで何年もしょっちゅう苔の揃った綺麗な土を畑耕すように掘りまわしてからに、その度に苔をひっくり返し踏みしめ元に戻してきたが。ミミズを探しているらしいな?山におるだろうに何でわざわざ・・・しかも今度はまたよりによって何で「千両」を引き抜いて掘る!」
猪「千両?さて何のことやら。この赤い実をつけた草ですか?この草の下のミミズは美味しかったです。」
私「やっぱりお前か、ついに白状したな、いやとうに分かっておったわ!」

猪「あの~、先程から私に随分厳しいお言葉でお叱りですが。以前ここに山仲間の狸の親子が毎日きていましたでしょう?」
私「・・・あ? ああ来ていた、30年くらい前かな。初めはひとを恐れていたようでも、親父が餌を投げているうちに次第に近づくようになって、そのうち親子そろって台所裏で待つようになった。可愛かったもんよ。」
猪「ああ、随分以前の事ですが憶えておいででしたか。  え~と、あの~。」
私「何だ。何の話だ、狸がどうした。もうとっくに来なくなったぞ。」
猪「あのですねえ・・狸は可愛くて猪はダメなんですか?」
私「・・・」
猪「狸は良くて猪はダメなんですか?」
私「・・そりゃ、狸は別に悪さはしないがお前は掘ってはいけない大事なうちの庭を、」
猪「あなたにとってはあなたの庭でも、狸にとってもわたしにとっても山という生活の場所なんですが。そこで懸命に生きているだけなのに狸は良くて猪はダメというのが、わたしにはよく分からないんですが。それから、その狸。来なくなったでしょ?なぜか知ってます?」
私「・・さあ。どこかもっといい餌あるところか、貰えるところへ行ったんじゃないか。」
猪「やっぱりご存知ない。いつかこのお寺で200人くらい集まって仏教婦人会の大きな大会がありましたね。その時お昼食がお弁当でしたね。」
私「何の話だ。狸と婦人会の弁当がどう関係ある、それよりそもそも・・。」
猪「ご婦人ご高齢のお方が多く、お弁当の中の《から揚げ》ほとんどの方が残されましたね。何百個と残されたから揚げ、お父様が「捨てるのは勿体ない、あの子らにやろう喜ぶ」と毎日毎日毎日あげましたね。普段山のものを細々と食べている子供らにあんな美味しいものをやったらそりゃ、びっくりの大喜びです。何日も何日も頂いてそのうちから揚げも底をつき、急に以前のようにたまの魚の骨になりましたね。」
私「・・・」
猪「あの後、大変だったんですよ子供たち。とんでもなく美味しい柔らかいお肉の味を憶えて、それに慣れてしまって。『もうないのか~。から揚げ食わせろ~!』って、家庭内暴力に発展して家族崩壊・・。見ちゃいられませんでした。一家バラバラになってどこへいったやら。」
私「・・・」
猪「良かれと思ってされたんでしょうが。美味しい餌やりも長続き出来ないのが悪かったともいいませんが。  いえ、すみません。狸は良くて猪は悪いということを思いましたので、こんな昔話を。良いと思ってすること、悪いと思ってする事なんてことまでチョット・・。」


猪「それから、わたしの庭と仰ってますが。《わたしの》と言っていいのは死んで持っていけるものだけだそうですよ。死んでも持って行けるモノ。服もカバンもお金も、持って行けないなら《わたしのもの》ではなくて誰かからの《あずかりもの》だそうです。今あずかっているだけ・一時 縁あってここに寄っているだけで、やがてみんな返さなくてはいけないもの、持って行けないんですから。素っ裸になってこの身体だけって言っても、この身体も持って行けませんからねえ。これもやっぱり《わたしのもの》でなくて《あずかりもの》だそうですよ。大変な事ですよねえ。
私「・・・」
猪「でね。ほら、自分のものは自由に出来て汚しても壊してもいいじゃないですか、自分のものなんですから。《あずかったもの》こそ大事にしないといけないんですよねえ、いつか返さないといけないんですから。丁寧に扱って大切に大切に。      いえ、すみません。以前仏さまからお聞きしたもので、ちょっと偉そうでしたか。すみません。   はい、分かりました。あなたの庭ですね。今後気をつけます。   では。」

   猪、山に帰ってゆきました。  また来るんでしょ。  分かりました。

急に冷え込んでまいりました。どうかご自愛のほど念じ申し上げます。

         西蓮寺 栗山知浩    拝

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