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『 蟪蛄春秋を知らず。 』  西蓮寺です。

 まだ夜が明けるか明けない内から押し寄せる< セミの大合唱 >。
長く土中にあってやっと陽を全身に浴びる世界に生まれ出ました。ここから残された時間は非常に少ない事を知っているかの様に感じる精一杯の< 大合唱 >。

 <蟪蛄>とは蝉のことです。夏を謳歌する蝉。
この蝉は夏の専門家であって夏の事はよく知っているであろうが、春と秋を知らない。夏に生まれて夏に死んでゆくので、他の季節 春も秋も冬も知らない・・という言葉『 蟪蛄春秋を知らず 』

 これだけなら「井の中の蛙大海を知らず」と一緒の意味合いです。
私は何でも知っている!知らないことなど無いと言っていてもそれは小さな世界・狭い世界の中だけの事。井戸の中の蛙が「俺はこの世界のことは何でも知っている」と威張っているようなもので、その井戸から一歩外へ出て見なさい。大きな世界があるんだよ、海という想像も出来ないほどの広大な世界があるんだよ。小さな世界に留まらず満足せず、もっと広い世界を知りなさい。求めなさい。

 仏法からの言葉『 蟪蛄春秋を知らず 』には後に言葉が続いてあります。

『 蟪蛄春秋を知らず この虫 豈 朱陽の節を識らんや 』
   (けいこ しゅんじゅうをしらず。このむし あに しゅようのせつを しらんや)

 蝉は夏の専門家で夏のことは良く知っているであろうが、春と秋を知らないという。ではこの蝉は本当に夏(朱陽の節)を知っているんだろうか・・いや知りはしない。

      エッ・・・夏も知らないの? それって何にもしらないの?

そう、春や秋・冬という他の季節を知っていて初めて今が<夏>という季節、<夏>という暑い季節なんだという事が知りえる訳で。今が夏という暑い季節であるという事を知ることもなく、ただその場所にいる。   狭い世界のことだけは知っていると思っていたら実はそれさえも<知って>いなかったという悲しくも恐ろしい示しであります。


 春秋冬の季節を知って、はじめて夏を知る。
 外の世界を知って、はじめて内の世界を知る。
大きな世界に触れて、はじめて自分の小ささを知る。
他者・他のひと・まわりのひとの人生・歩まれた道に触れて、はじめて自分の姿が見えてくる。知らされてくる。


 狭い世界に慢心する事なく、広い世界を知りなさい。あなたは知らない事が多すぎる、もっともっと学びなさい、見聞を広めなさい。 という勧めは< 知れば知るほど偉くなる >道。

 もうひとつの道においては、< 知れば知るほど、自分のことがよく知れる >。
沢山の事を学ぶのも、多くの方の人生にふれてゆくのも、多くの出来事を経験してゆくのも、それによって知識を増やし偉くなってゆく事を勧めるのではなく。
 そのたびに次第次第に< 深く自分に出会いつづける事 >であると勧められてあるのです。 この道に慢心はなし、終わりなし、日々あらたなり・・です。


 他人の心は分からない、自分の事しか分からない。
    と思っていても・・どうでしょう。
      一番分からないのが自分のことではないでしょうかねえ・・実は。

 この先も色んな出来事に出くわします。その時「 ああ、わたしはこんな事を思うんだ 」と知らなかった自分に出会う事があるかも知れません。

    < 慌てない、あわてない。 >  by トンチの一休さん


   盛夏 くれぐれものご自愛念じ申し上げます。 拝
   
                    西蓮寺 栗山知浩




         

   

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