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『ひと来たら 蛙になれよ 冷やし瓜』 西蓮寺です。

 なんとも暑い夏の日、畑から瓜を穫ってきた男。桶に冷たい井戸水をはってポチャーンと入れてご満悦、汗を拭きながらも冷えた甘い瓜を食べるのが楽しみでたまりません。(まあ何と季節感のない話・・とあきれ顔しないで読んで下さい)

 冷えるには時間がかかりますが ジッと見つめて待っている訳にはいきません、用事があります。行こうとしてもう一度振り返り、冷水に浮かんだ瓜を見つめます。「・・こんな暑い日の冷たい瓜・・誰でも欲しいに違いない。だれもいなかったら盗んでいく奴がいるかもしれない。いや、盗って行くに違いない。どうしよう、ここで見張っている訳にはいかない。大丈夫か・・いや、持って行かれてしまう。どうしよう。」   しばし悩んだ男、ゆっくり口を開き桶の中で浮いている瓜に話しかけます。  「・・いいか、瓜よ。もし俺以外の奴が来たら蛙に姿を変えろよ、蛙に。水の中で泳いでいる蛙を持って行く奴はいない。蛙に変わるんだぞ、いいな!」  何度も瓜に言い聞かせ、後ろ髪ひかれながらその場から離れて行きます。

 その様子を物陰から覗いていた男がいました。「馬鹿な奴だ、瓜に話しかけている。真剣な顔して≪蛙になれよ≫ってか。間抜け者めが。そうだ、ひとつイタズラしてやるか。」
男はササっと出て来て桶に入っている瓜を盗ってしまい、ご丁寧にもそこらにいた一匹の蛙を捕まえて桶の中にポッチャーン。

 しばらくして、十分冷えた頃合いの瓜を楽しみに最初の男が帰ってきました。もういい頃だろうと。   ところが桶を覗くと何とまあビックリ、蛙です。蛙がスイスイ泳いでいます。慌てふためく男。  「おい、俺だ!俺だ。瓜に戻れ、俺だ。蛙にならなくていいんだ、俺だよ。瓜に戻ってくれ。」桶のふちを両手で掴み懸命に蛙に話しかける男。    通り過ぎるひと達は気味悪がってなるべく離れて歩いてゆきます。

○ さて貴方、蛙に真剣に話しかけお願いされた事、ありますか? 
ないでしょう?ないでしょう。   この男も普段だったらそんな事しません、しませんよそんなバカらしい事。でもこの男はやってしまった、しかもいたって真剣に。
何がそうさせたのか。この男以外の誰が見ても愚かなこの行いを 何故、この男はやってしまったのか。それは、『欲』です。誰にもやりたくない自分だけのもの。そして『疑い』です。ひとは盗むにちがいない。自分のこころに『盗む』という思いがあるので、ひとを『盗む人』と見てしまうのです。
 この男、最初に「蛙になれよ!」の思いがなかったら、そんな事を瓜に言い聞かせていなかったとしたら。桶の中に瓜ではなく蛙がいても、それは蛙に見えたでしょう。蛙が蛙にみえないんです、これが大変な事なんです。『欲』と『疑い』のこころは私を、正しく物事を受け止められない人間にしてしまいます。
 自分ではいたって真剣なつもりでも、ひとから見たら愚かな事をやってしまう。言ってしまう。    男は次の日から会うひと会うひとに言うでしょう。

「あのな、瓜は蛙になるぞ。嘘じゃない、本当だ!俺はこの目で見たんだ!」 

 
厳しい季節に向います、お身体とおこころ お大切念じ上げます。

                  西蓮寺 住職 栗山知浩   拝



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