炭酸美容家 髙橋弘美|コスメ・美容・スキンケアを学び・使うサロン

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石鹸が好きな日本と石鹸が嫌いな海外

海外コスメのパッケージを見ていると「Soap free/石鹸不使用」という文字を目にすることがあります。石鹸を使っていない、というアピールです。

ヨーロッパやアメリカでは、スキンケアやボディケアの分野では割とよく書かれている気がします。「石鹸を含んでいないこと」が安心の証のように扱われているんです。

一方、日本では少し事情が違いますよね。無添加や自然派を好む人であればあるほど、固形石鹸や石鹸成分(脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム)にこだわる傾向があります。

「石鹸はシンプルで肌にやさしい」というイメージが強く、むしろプラスに受け止められているのです。
ではなぜ、日本では石鹸が愛され、海外では「soap free/石鹸不使用」が好まれるのか?そこには、水の性質や生活環境、そして洗浄料の歴史的な背景が深く関わっています。

私の海外での暮らしや、海外の化粧品会社で働いていた経験をまとめてみます。めちゃくちゃ面白い(はず…)なのでぜひ最後まで読んでみてください!

【水の違いが生む石鹸のイメージ】
日本の水道水は平均硬度が48.9mg/L(CaCO₃換算)ほどで、WHOの基準では軟水に分類されています。
軟水はカルシウムやマグネシウムが少ないので石鹸を使っても泡立ちがよくて、石鹸カスが出にくいです。

私も家中の洗剤はすべて石鹸です。洗濯に台所、洗面所、シャンプーやボディーソープ、手洗い用はすべてです。それ以外はありません。

そして住んでいるエリアは日本の中でも軟水地域なのですが、さらに軟水器をつけて、より水を柔らかくしています。この違いがわかるともう石鹸生活ややめられません。

一方、ヨーロッパやアメリカの多くの地域は硬水です。フランスやドイツでは180mg/L前後と、日本の数倍の硬度があります。

私が昔住んでいたアメリカの地域も硬水でした。なので石鹸が役に立たず、髪や顔を洗うときしみがひどかったです。

エビアンとか飲んだことがある方はその水の味の違いも感じられると思います。

石鹸の脂肪酸ナトリウムやカリウムは水の中のCa²⁺やMg²⁺と反応して「金属石鹸(metal soap)」をつくり、白い石鹸カス(soap scum)となります。

カルシウムやマグネシウムは石鹸の泡立ちを妨げて、肌の乾燥やざらつき、さらには配管のスケールの原因にもなるので、石鹸は「使いづらいもの」として印象づけられています。

【合成界面活性剤の誕生】
石鹸の弱点を補うという形で登場したのが合成界面活性剤です。第一次世界大戦中のドイツでの油脂不足をきっかけに開発されました。

ところが、合成界面活性剤なら硬水でも安定して泡立つ、という利点から広く普及したんですね。ここから、石鹸に代わる「新しい洗浄料」の時代が始まったんです。

【スキンケアにおける文化の違い】
そして、この流れはスキンケアやボディケアにも波及します。石鹸の代わりに「Syndet(シンデット」と呼ばれる合成界面活性剤ベースの洗顔料やボディソープがけっこう目立つようになっていきました。

現在でも「Syndet bar」「soap free cleanser」といった製品はフランスやドイツの敏感肌ブランドで一般的に販売されていて、皮膚科医が推奨することも珍しくありません。

「石鹸は乾燥させる」「肌に残って不快」という経験を持つ欧米では、「soap free=肌にやさしい」という認識が文化として定着しています。

逆に日本では欧米と比較して軟水なので、石鹸が随分と快適に使えるため「シンプルで安心」「自然派で肌にやさしい」というポジティブなイメージが広がっているんですよね。

【今日のまとめ】
日本では「石鹸=ナチュラルで安心」という評価、欧米では「soap free=安心でやさしい」という評価。背景にあるのは水質の違いと戦争による油脂不足から生まれた合成界面活性剤の歴史ですね。

同じ「洗浄料」でも、生活環境が違えばここまで文化が分かれます。そう考えると、スキンケアの方法がなぜ欧米と日本では違うのか、というのもその理由がわかりますし、化粧品の選び方も国ごとにそれぞれ違うのも納得できるのではないでしょうか。

日本の軟水は石鹸を快適に使える環境を作り、石鹸はシンプルで肌にやさしいものとして受け入れられてきました。反対に硬水地域の欧米では石鹸がトラブルを引き起こしやすく、第一次世界大戦をきっかけに開発された合成界面活性剤が主流となり、今もSyndetやsoap free製品が信頼され続けています。

同じ石鹸でも、水の性質と生活の歴史によって、その評価は大きく分かれますね。日常に根ざした体験が、国ごとのスキンケア文化をつくり上げてきたといえます。だからスキンケアの方法も違うのですね。いつか日本と欧米のスキンケアの方法についても書こうと思いますので楽しみにしててくださいね。


【参考出典】
WHO Guidelines for Drinking-water Quality(WHO, 2017)
厚生労働省 水質基準項目(水道水硬度に関する情報)
Tani T. et al., “Drinking Water Hardness and Health Effects in Japan” Int J Environ Res Public Health, 2021
Chem LibreTexts, Cleaning with Soap
Wikipedia, Hard water / Soap scum
The German Chemical Society Archives(第一次世界大戦時の合成洗剤開発史)
EU Regulation (EC) No 1223/2009 on cosmetic products
Eucerin, La Roche-Posay 各公式サイト(Syndet製品情報)

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