炭酸美容家 髙橋弘美|コスメ・美容・スキンケアを学び・使うサロン

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日焼け止め「SPF50+」のはずが…実測はまさかの「SPF4」!?

2025年6月、オーストラリアの消費者団体CHOICEが発表した日焼け止めの検査結果が、多くの人に衝撃を与えました。
調査対象は、SPF50または50+と表示された20種類の日焼け止め。国際規格に基づく試験を行ったところ、なんと!表示通りのSPF値を満たしていたのはわずか4つだけだったというもの。残りの16個は表示より低い値で、中には実測が「SPF4」というケースもあったというのです。

これかなり衝撃的な内容じゃないですか?
SPF50+のはずがたったひと桁という結果です!消費者の多くが不安を感じるのももっともですよね。この事態を受けて、オーストラリアの医薬品規制当局(TGA)は調査を開始しましたが、現時点ではリコールや販売停止などの措置は発表されていません。

特に自然派のライフスタイルを送り、日常的に日焼け止めを使っている方にとっては、このニュースはとっても気になるものですよね。
「こんな結果なら日焼け止めなんて使う意味ないし、もうどれを信じていいかさえわからない…」そう思ってしまう人がいても無理はありません。

でもこれは「日焼け止めは無意味」という話ではありませんからね。大切なのは、この結果の背景をちゃんと理解して、日常の紫外線対策にどう生かすか、です。
今回の結果から見えてくることを私なりに解説していきますね。まずSPF試験そのものが私たちが思うほど精密ではない、ということなんです。ちょっとびっくりな話でしょうか。

SPF値はISO 24444:2019という国際規格に沿って人の肌で測定されます。でも、被験者の肌質や肌のコンディションによっては、実は結果は変動してしまうんです。同じ日焼け止めでも試験を行う機関が違うと、また数値が変わってしまう、ってことも実は…珍しくないんです。
これ、私がアメリカなど海外の化粧品会社にいた時にも社内でも色々議論があったりしたんですよね。ますます何を信じていいのかわからなくなりますよね。

そしてさらに、日焼け止め商品の状態は常に一定ではない、という事実もあります。これ、処方そのものが変わらなくても、原料ロットや製造条件のわずかな違いでSPF値に影響を与えてしまって、数値が下がることもあるんですよね。
私が「1年前の日焼け止めは使うのやめて!」って発信している理由がまさにこれなんです。また、私たちが日焼け止め作りに苦労している理由の一つでもあります。

自然派なライフスタイルを好む方は、紫外線散乱剤の酸化亜鉛や酸化チタンを主成分とするミネラル系の日焼け止めを選ぶ傾向にありますよね。これらは成分の粒子サイズや分散具合によってSPF値が変動しやすいという特性があったりもします。肌にやさしいという利点がある一方で、この変動しやすさにはちょっと注意が必要なんです。

オーストラリアではSPF50+という表示は「SPF60以上」の日焼け予防効果があることを意味しています。今回のテストでは、この厳しい基準を満たしていたのは実質的に2つしかなかったとのことでしたが、同じSPF50+でも国や基準によってその意味が若干異なることも知っておくといいかもしれません。

SPF試験にはおよそ±17パーセントの許容差があり、同じ製品でも環境や条件によって数値は変動します。どういうことかというと、例えばSPF30という日焼け止めを例にしてみます。
計算は以下の通りになります。
上限値:30 × 1.17 = 35.1
下限値:30 × 0.83 = 24.9

つまり、SPF30と表示されている場合、試験の結果がSPF約25〜35の範囲であれば、国際規格ISO 24444の基準内と見なされます。だいぶ差があるように感じますよね。でも許容範囲なので、数値がSPF25と表示よりも低く出たからといって必ずしも「不良品」ということではなく、測定のばらつきの範囲内である可能性があると言えるんです。

さらに、日焼け止めの効果はその製品の性能だけでなく、どれだけの量を塗ったか、どのくらいの頻度で塗り直したかという使い方によっても大きく左右されます。
これは私がよくインスタライブなどでも皆さんにしつこくお伝えしているのですが、どんなに高いSPF値の日焼け止めでも、正しい量が塗れてない、塗り方にムラがある、朝一度塗っただけで塗り直していない、ということであればそもそもその効果は半減してしまうんです。

実際、オーストラリアで行われた長期臨床試験(ナンバー試験)では、SPF16という比較的低い値でも皮膚がんの発症リスクを有意に減らす効果が確認されています。
高SPFでなければ意味がないというわけではなく、適切な量と塗り直しを組み合わせることで、比較的低めのSPFでも十分な紫外線防御が可能ということなんです。

SPF値は高いほど安心と思いがちですが、実際はそう単純ではありません。製品の性能だけでなく、どれだけの量を塗ったか、どのくらいの頻度で塗り直したかという使い方によって、日焼け止めの効果は大きく変わります。

この点を示す代表的な研究が、オーストラリア・クイーンズランド州ナンバー地域で行われた「ナンバー試験」です。この長期臨床試験では、平均4.5年間、毎日SPF16の日焼け止めを顔と手に使用するグループと、必要な時だけ使用するグループとで比較しています。
その結果、日常的に使用したグループでは有棘細胞がん(SCC)の発症率が有意に低下し、基底細胞がん(BCC)についても抑制傾向が見られました。
ここで重要なのは、使われた日焼け止めがSPF16と比較的低めだったにもかかわらず、しっかりとした効果が得られたことです。つまり、適切な量と頻度で使えば、SPF値が極端に高くなくても十分な紫外線防御が可能だということです。

自然派のライフスタイルを送る方が日焼け止めを選ぶときには、まず十分な量を塗ることを心がけましょう。顔に塗る場合は、人差し指と中指の2本にたっぷりと日焼け止めをのせた長さが目安になります。
実際に計ってみると、思っているよりもかなり多いことに驚くかもしれません。
次に、こまめな塗り直しを習慣にすることです。日焼け止めは汗や皮脂、服や手による摩擦で少しずつ落ちていきます。屋外で活動する場合や長時間の外出時には、2〜3時間おきに塗り直すことで、表示されている性能をしっかり発揮できるのです。

そして日焼け止めだけに頼らず、帽子や日傘、UVカット機能のある衣類といった物理的な紫外線対策を組み合わせることも効果的です。特に真夏や紫外線量が多い時間帯に外出する際は、この組み合わせが肌を守る大きな助けになります。

さらに、成分と使用感にも注目してみてくださいね。ミネラル成分を主とした日焼け止めは肌にやさしい反面、SPF値の変動が起きやすいため、成分表示を確認しながら、自分の肌や生活スタイルに合った製品を選ぶことが大切です。

今回の結果は驚きではありますが、「日焼け止めが信用できない」という結論にはなりません。大切なのは、数値だけを鵜呑みにせず、日焼け止めの本来の力を引き出す使い方をすることです。
ブランド側が原因の調査や改善を進めることは確かに必要ですが、消費者としてできる最大の対策は、適切な量を塗り、こまめに塗り直し、物理的な紫外線防御を取り入れること。それが肌を守る最も確実な方法なのです。SPF値はあくまで目安であり、紫外線対策のすべてではありませんから。

今回のニュースをきっかけに、日焼け止めの「選び方」だけでなく「使い方」を見直すことが、肌を守る第一歩です。そして、より再現性の高い試験方法や透明性のある情報公開がグローバルに進めば、私たちの日焼け止め選びはもっと安心できるものになるのではないでしょうか?

【出典】
Therapeutic Goods Administration (TGA). TGA statement on CHOICE SPF sunscreen findings.
2025年6月更新. https://www.tga.gov.au/news/news/tga-statement-choice-spf-sunscreen-findings
CHOICE. 16 of 20 sunscreens didn’t meet SPF claims in CHOICE test. 2025年6月.
https://www.choice.com.au/about-us/media/media-releases/2025/june/16-of-20-sunscreens-didnt-meet-spf-claims-in-choice-test
ISO 24444:2019. Cosmetics — Sun protection test methods — In vivo determination of the sun protection factor (SPF)
Green AC et al. Daily sunscreen application and betacarotene supplementation in prevention of basal-cell and squamous-cell carcinomas of the skin: a randomised controlled trial. Lancet. 1999;354(9180):723–729

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