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天然炭酸水「ペリエ」に何が起きたのか?
長年、世界中で愛されてきたフランス生まれの炭酸水ペリエ。「炭酸水といえばペリエでしょ!」っていうくらい日本でもおしゃれな炭酸水として知られていますよね。私も長く愛飲してきました。
そのシュワシュワの泡と爽やかな味わいは、自然の恵みがそのまま!と思ってきた方も多いですよね。実際に炭酸ガスの濃度を測定してみても強い炭酸水というよりは柔らかな濃度だったりもするので、後から炭酸ガスを添加した作り方とも違うナチュラルな炭酸水だと思っています。だから健康を意識して、添加物のない「天然ミネラルウォーター」を選んできた方にとってもペリエは安心できる存在だったはずです。
ところがこの夏(2025年)、その信頼を揺るがすニュースがフランスから届きました。ありとあらゆるニュース報道を読んだり見たりすると、ペリエの一部製品で、EUの規定では許されない処理が行われていた可能性があるというのです。しかも、過去には細菌の混入が見つかり、大量のボトルが廃棄されていたと!
「天然」とは何を意味するんでしょうか?天然という言葉が魔法の言葉のように聞こえてしまう方も多いと思うのですが、そんな私たちは一体何を信じて選べばよいのでしょうか?
今回のニュースは、水にこだわって健康を守ろうとする人に、大切な問いを投げかけていると感じます。
<天然ミネラルウォーターの本当の定義>
「天然ミネラルウォーター」という言葉は、ただのイメージではなくて、法律で定められた定義があります。特にEU(欧州連合)では、その条件がとても厳しく設定されているんです。
・水源から採水された時点で安全であること
・地下深くの限られた場所から湧き出る水であること
・殺菌やろ過など、化学的・物理的な処理を一切しないこと
・水質やミネラル成分が安定していること
つまり、「水源からボトルまで、自然そのままの状態で届けること」が必須なんです。
紫外線での殺菌処理や活性炭フィルターによるろ過は、EU基準では禁止されています(出所:欧州委員会飲料水規則)。
一方、日本では少し事情が違っていて、日本の「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」では、加熱殺菌やろ過など一定の処理が認められているので、処理をしても「ミネラルウォーター」と表示することができます。
そのため、海外で天然ミネラルウォーターと売られているものであっても日本に輸入される段階で表示が変わることがあります(出所:農林水産省「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」)。
余談ですが、私も化粧品を作る際に温泉水や天然水を使うことがありますが、実は化粧品を作るときは、そのままの天然水では使えません。目に見えないゴミや不純物、微細な浮遊物が含まれているからです。
私の会社では別事業でフィルターを製造しているので、水の性質や状態によってフィルターの目を変え、必要に応じて非常に細かい処理を行っています。「天然」のものをそのまま化粧品に使えるとは限らないのです。
そして「天然」という表示があっても、国や地域によってはその基準も違います。今回のペリエの件は、まさにその基準の違いと、消費者の「天然」イメージの間にあるギャップが浮き彫りになった形です。
<何が問題だったのか?>
フランスの調査報道によって、ペリエを含む一部の天然ミネラルウォーターブランドで、EUの基準では許されない処理が行われていたことが明らかになりました。
具体的には、紫外線による殺菌、活性炭フィルターでのろ過、微細なメッシュによる濾過などです。これらはいずれもEUの天然ミネラルウォーター規定では禁止されています。
さらに2024年には、南フランスのヴェルジェ工場で、糞便由来の細菌が検出されました。その結果、200万本以上のペリエ製品が破棄されています。このような細菌汚染は、安全であるはずの地下水にもリスクが存在することを示しています。
背景には、気候変動による豪雨や洪水の増加、地下水脈への汚染リスクの高まりがあります。これまでの安全管理方法だけでは、水質を保つことが難しくなっている地域が増えているようなのです。
今回の報道は、ペリエだけの問題ではなく、天然水の安全管理全体に対する問いかけでもあります。有名ブランドであっても、自然そのままの状態を保つことが難しい現実があることを、私たちは知る必要がありますね。
<政府の対応に疑問の声>
フランス政府は、実はこの問題を少なくとも2021年の時点で把握していたとされています。しかし、公表は2025年まで遅れました。なのでその間も、対象ブランドは「天然ミネラルウォーター」として販売を続けていたことになります。
2025年5月、フランス上院の調査報告書は、この遅れについて「意図的な隠蔽戦略」と結論づけています。この報告書によると、行政と企業の間に情報共有はあったものの、消費者への説明は行われなかったと指摘されています。政府が安全性に関わる情報をすぐに公表しなかったことで消費者の信頼は大きく揺らぎました。今回の事例は、情報公開の遅れがいかに信頼を損なうかを示す典型例となっています。
一方、製造元のネスレは、この指摘を受けて、EUのルールに合わない水の処理はやめるという方針を示し、違反に対する罰金も支払っています。
<自然志向の消費者が気をつけるべきこと>
今回のペリエの件は、例え有名なブランドであっても表示やイメージだけで安心できないことを示しています。
自然派の人ほど、「天然」という言葉を信じやすい傾向がありますが、その基準や実態は国や地域によって異なります。
安全性を確かめるために、次のような点に意識を向けることが役立ちます。
・ラベルの表示をよく確認する
・原産国や採水地を知る
・加工や処理の有無を調べる
・過去のリコールや安全性の報告を調べる
また、同じブランドでも輸入国ごとに製品仕様が異なる場合があります。
例えばEUで「天然ミネラルウォーター」とされていても、日本に輸入される段階で殺菌処理が加えられることがあります。
現に私が働いていたアメリカの企業が日本に天然水を輸出しようとしたとき、日本の食品衛生法の飲料水に関する規制が非常に厳しいことを知り、断念したことがあります。日本では飲料の中でも水の輸入が最も難しいとされ、衛生基準が高いんですね。
このように日常的に口にする水は、体に直接取り入れるものなので表示やブランドイメージだけに頼らず、情報を集めて自分で判断することは健康を守るためにとっても大事ですよね。
<自然の価値と健康の関係>
水は、私たちの体の大部分を占める大切な存在です。
日々の食事や運動に気を配るのと同じように、どんな水を飲むかは健康に直結すると私は思います。
自然な水には、加熱や薬品処理では変わってしまう微妙なミネラルバランスや風味があります。それは、自然の地層を長い時間かけて通ることで育まれたもので、人工的に再現することはできません。
今回のペリエの件で、自然の恵みをそのまま受け取ることがいかに難しいか、がわかると思います。自然なものを求めるなら、産地や採水方法、安全管理の姿勢まで含めて選ぶ必要があります。
自然志向とは、単に「無添加」や「天然」と書かれたものを選ぶことではありません。その言葉の裏にある背景や事実を理解し、ラベルの表示を読み取り、自分の体やライフスタイルにふさわしい選択をすることです。
毎日飲む水だからこそ、自然の価値と安全の両方を意識して選びたいものですよね。
【情報ソース】
欧州委員会 飲料水規則(EU)
https://food.ec.europa.eu/safety/hygiene/food-hygiene-legislation/drinking-water_en
農林水産省「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/index-95.pdf
Le Monde: Nestlé destroys two million bottles of Perrier over bacterial contamination (2024年4月25日)
https://www.lemonde.fr/en/environment/article/2024/04/25/nestle-destroys-two-million-bottles-of-perrier-over-bacterial-contamination_6669490_114.html
El País: Watergate en Francia: el escándalo que sacude el agua mineral natural de Perrier (2025年8月8日)
https://elpais.com/sociedad/2025-08-08/watergate-en-francia-el-escandalo-que-sacude-el-agua-mineral-natural-de-perrier.html
AP News: How Nestlé and the French government tried to conceal the Perrier scandal (2025年5月19日)
https://apnews.com/article/ec05af578d705a6f06d5df99ae1e85c8
JETRO: EU食品輸出ガイド(飲料)
https://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/foods/exportguide/drink.html