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SNSで話題の「石けん有害物質指定」は本当?
最近SNS上で、石けんが第一種指定有害物質に指定されるという情報が拡散されていますね。
投稿の中には「使用禁止になるのではないか」「企業や製品が潰されようとしている」など、強い不安を煽る内容も見られます。
特定の名前を挙げた投稿が多く、敏感肌や赤ちゃんの肌にも使えるとされてきた石けんが危険視されるのか、という驚きと戸惑いの投稿も見られ、拡散されています。
でも、この情報は事実と異なる部分が多くあります。
まず第一に、環境省の公式文書によれば、石けんの主成分である脂肪酸ナトリウム塩や脂肪酸カリウム塩は、現時点で第一種指定化学物質には指定されていません!
さらに、仮にこの制度の対象になったとしても、それは使用禁止を意味するものではありません。
正しく理解するためには、まず「PRTR制度」と「第一種指定化学物質」という用語の意味を公的機関の情報から整理する必要があるかなと思うのでまとめてみます。
【PRTR制度と第一種指定化学物質とは何か】
PRTR制度は環境省が運用している「特定化学物質の環境への排出量及び移動量の把握等に関する制度」の略称です。
この制度の目的は何かというと、環境や人の健康に影響を及ぼすおそれのある化学物質について、その排出量や移動量を事業者が把握し、国に報告することで、環境汚染の未然防止や適切な管理を行う、ことにあります。
PRTR制度の対象となる化学物質は、環境基本法に基づき「第一種指定化学物質」と「第二種指定化学物質」に分類されます。
第一種指定化学物質とは、長期にわたって環境中に残留し、生物や人に蓄積して有害な影響を及ぼすおそれがある物質のことです。対象物質に該当する場合、一定規模以上の事業者は、その物質の年間の排出量や移動量を計測し、環境省へ報告する義務があります。
そして、重要なのは、この制度は物質の使用や製品の販売を禁止するものではないという点です。
第一種指定化学物質に該当しても、法律上は報告や情報公開が義務付けられるだけであり、製品が市場から消えるわけではないです。。
環境省の説明によれば、この仕組みは透明性の確保と情報提供を通じて、事業者や消費者が安全に化学物質を扱えるようにすることを目的としています。
つまり、「第一種指定化学物質」という用語が、必ずしも日常生活での使用禁止や危険な物質であることを意味するわけではないですね。
【環境省の公式見解:石けんは指定されなかった】
環境省が公開している令和3年(2021年)の政令改正に関する資料によると、石けんの主成分である脂肪酸ナトリウム塩および脂肪酸カリウム塩は、第一種指定化学物質には指定しないことが明記されています。
これはパブリックコメントの結果をまとめた公式文書の中に「今回の政令改正では第一種指定化学物質に指定しないこととしました」との記載があります。
指定しなかった理由としては、脂肪酸塩の一部は環境中での半減期が1日以下と非常に短く、分解が早いため、長期残留性の要件に必ずしも当てはまらないことが挙げられています。
また、水環境における挙動や影響について十分な評価がまだ整っていないため、現段階では対象に加える判断には至らなかったと説明されています。
このため、現時点で石けん成分が第一種指定化学物質に該当する事実はなく、制度上も事業者に新たな報告義務が課される状況ではありません。
環境省は引き続き評価と検討を行うとしていますが、それは科学的な知見に基づいた見直しの一環であり、即座に規制や禁止が行われる段階ではありません。だから安心してください。
【厚生労働省が示す石けんの有効性と推奨】
逆に厚生労働省はどうか?というと感染症対策の観点から、石けんの使用を積極的に推奨していますよね。
新型コロナウイルス感染症への対応を覚えていますか?脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウムを含む石けんは有効な界面活性剤であると公表していますよね。
厚生労働省の資料では、純石けん分として脂肪酸カリウム0.24%以上、脂肪酸ナトリウム0.22%以上を含む製品が、ウイルスや細菌の除去に効果的であると言ってます。
この推奨は国民向けの感染症予防ガイドラインにも書いてありますし、日常的な手洗いに石けんを使用することが衛生管理の基本であると言ってます。
厚生労働省がこのように具体的な濃度基準を明示し推奨することは、石けんが人体に有害であるという見解とは全くの正反対ですよね…。
【海外での石けん成分の安全性評価は?】
石けん成分の安全性について、海外の公的機関ではどう評価しているのでしょうか?
まず、米国では、石けんの規制は用途によって異なります。
米国食品医薬品局(FDA)の定義に当てはまる「石けん」は、FDAではなく消費者製品安全委員会(CPSC)が規制していますが、CPSCは一般的な消費者製品として石けんを扱っており、特別な安全上の制限は設けていません。
欧州では、欧州食品安全機関(EFSA)が2018年に脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩を評価しています。その結果、食品添加物としての使用を含め、報告された濃度や用途において安全上の懸念はないと結論づけています。
そして、米国化粧品成分審査会(CIR)でも2018年に102種類の脂肪酸およびその塩について化粧品用途での安全性評価を行っています。その上で、一般的な使用条件下では安全に使用できると結論づけています。
オーストラリアではどうか?というとNICNAS(国家産業化学品通知評価制度)が、脂肪酸塩の多くを労働者や公衆衛生に不当なリスクをもたらさないTier I化学物質に分類しています。
【石けんは分解されやすく人体にも安全】
石けんの主成分である脂肪酸塩は、水環境中で速やかに分解される性質を持っています。河川での調査や実験では、数時間から1日程度で大部分が分解されることが確認されています。特にカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分と反応すると、不溶性の石けんカスとなり、水中での存在時間は短くなります。
人体への影響については、脂肪酸塩はもともと人の脂質代謝の一部であり、食事からも日常的に摂取しています。そのため、通常の使用条件において健康被害をもたらすという科学的根拠はありません。
世界保健機関(WHO)も、感染症予防のための手洗いに石けんを推奨しており、その安全性と有効性を国際的にも認めています。
このように、公的機関による評価と科学的データでも石けんが環境や人体に重大なリスクをもたらす物質ではないことを一貫して示していますね。
【ではなぜ誤解が広がったのか?】
今回の「石けん有害物質指定」騒動が広がった背景には、いくつかの誤解が重なっています。
まず、用語の混同です・・・。
SNS投稿をよくみてみると、多くの投稿で「第一種指定有害物質」と書いてます。環境省の制度上の正式名称は「第一種指定化学物質」です。 「有害物質」という言葉は一般的に強い危険性や使用禁止を連想しますよね。でもPRTR制度の「第一種指定化学物質」は必ずしも直ちに人体に危険をもたらす物質とは限らず、使用禁止を意味するものでもありません。
それから、制度の目的に対する理解不足もありますね。 PRTR制度は、対象物質の排出量や移動量を把握し、環境汚染の未然防止や適正管理を行うことが目的であり、規制の本質は「報告義務」です。
このため、もし対象に指定されたとしても、その物質を含む製品が市場から直ちに姿を消すというわけではありません。
そして、不安を煽る情報発信の影響も大きいですよね。 SNSは拡散力が強く、一次情報を十分に確認しないまま印象的な言葉だけが独り歩きしてしまいます。
今回も、公式な決定内容や制度の仕組みを確認せずに、ただ単に危険性を強調する投稿が広くシェアされたことで誤解が広がったのかなと思います。
石けんは安全であり、使用禁止ではないです!今日の内容をまとめてみます。
公的機関の情報を総合すると、現時点で石けんの主成分である脂肪酸ナトリウム塩や脂肪酸カリウム塩は、第一種指定化学物質には指定されていません!
環境省は今後も評価を継続するとしていますが、それは科学的な知見の充実を目的としたものであり、使用禁止や販売停止の措置が取られる状況ではありません。
正しい判断をするためには、SNSの情報だけでは偏っているので必ず、公的機関が発表する一次資料を確認することが重要ですね。
石けんは引き続き安心して使用できる製品であり、日常の衛生管理においても重要な役割がありますね。
私も自宅は全て石鹸です。手洗いも台所もお掃除も全部です!
【参考】
環境省 PRTR制度公式ページ
https://www.env.go.jp/chemi/PRTR/
環境省 パブリックコメント結果(令和3年政令改正関連)
「今回の政令改正では第一種指定化学物質に指定しないこととしました」記載あり
https://www.env.go.jp/content/900518054.pdf
厚生労働省 新型コロナウイルスに有効な界面活性剤の種類と濃度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
米国食品医薬品局(FDA) Frequently Asked Questions: Soap
https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetic-products/frequently-asked-questions-soap
米国消費者製品安全委員会(CPSC) Soap に関する事業者向けガイダンス
https://www.cpsc.gov/Business--Manufacturing/Business-Education/Business-Guidance/Soap
欧州食品安全機関(EFSA) Re‐evaluation of fatty acids salts
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2903/j.efsa.2018.5180
米国化粧品成分審査会(CIR) Safety Assessment of Fatty Acids and Soaps
https://www.cir-safety.org/sites/default/files/fsoaps072018slr.pdf
オーストラリア NICNAS Fatty acids, salts and esters 評価概要
https://www.industrialchemicals.gov.au/