眼科学教室通信(1)私の修業時代〜研修 water-up

〜 water-up 〜


晩秋、新入局者がいよいよオーベンから独立する時の記念行事として、白内障手術を執刀するのが内規になっていました。医局員は手術はすべて見学するのがルールでしたが、この行事には日頃は研究室に閉じこもる研究員達も大勢集まってくるのでした。


私の手術の指導は歯科の助教授で、手術用顕微鏡の開発以前のこととて特注の手持ランプを使って患部を照明してもらいながらDaviel以来の古典的嚢外摘出を肉眼で行ったのです。この時ばかりは、いつもなら新人の役目と決まっていた照明係をオーベンがしてくれたのを鮮明に覚えていますし、滞りなく核が娩出された瞬間には、かたずをのんで周囲を取り巻く二十名ほどの人々のほっと安堵する雰囲気が伝わってきたのを昨日のことのように思い出します。


やがて技術の進歩や指導法の変遷と相まって、私達の世代が面白がって名付けたwater-up(水揚げ)は一般的ではなくなりました。こういったことがなくなったことの評価はさまざまだと思います。



出典:『落穂のバスケット(2001)』眼科学教室通信

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