子供の可能性を広げる親の役割 〜中学受験を通して学ぶこと〜

一生使える学びを子どもたちへ

私が話したいのは、その場限りのテクニックではなく、長く役立つ内容についてです。目先のテクニック的な話は、その時だけしか使えません。

今年で60歳になりました。自分が人生の終わりに何を残したいかと考えると、単に「中学受験に合格した」という事実ではなく、子どもが大人になってからも使える知恵や経験、一生涯役立つ内容を伝えたいと思います。

現実的な話をすると、中学受験をしている子どもたちは、宿題の有無に関わらず、すごくたくさん勉強しています。文部科学省のデータによれば、中学校が学校で行っている学習時間(体育祭や文化祭なども含む)は年間で735時間となっています。

一方で、子どもが毎日2時間勉強すると年間で730時間になります。これは学校で過ごす時間とほぼ同じ時間を勉強に費やしていることになります。子どもたちは本当に大変な努力をしているのです。

私が長年子どもたちを教えてきて常に思ってきたのは、「この子どもたちの努力が確実に報われるようにしたい」ということです。他の子どもたちが遊んでいる時間に、あえて塾へ通い勉強している。その努力が単に中学受験合格のためだけでなく、その後の人生でも活かせる内容であれば、努力の価値は何倍にも広がります。

中学受験後も続く子育ての課題

中学受験に合格したら子育ては終わりと思っている方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。中学受験である程度高いレベルに達すると、周りの子も同じレベルですから、また勉強しないといけません。

中高一貫校でも、成績が振るわなければ「高校に上がれません」と言われることもあります。また転校を勧められるケースもあります。私の教え子の話ですが、小学校からずっと見ていた生徒が高校生になった時、「なんで急に勉強するの?」と聞いたら、「行きたい大学に行けないから」と答えました。

入学してからの心配も多いのです。そのとき、どんな子育てをすれば、子ども自身が自分でやってくれる子になるか、それが大事なポイントです。卒業してからもやり取りしている中で分かるのは、うまくいっている子は「努力を継続し続ける子」なのです。

才能×努力の方程式

島田紳助さんが言った言葉で「結果=才能×努力」というのがあります。才能が5で努力も5なら、5×5=25という結果が出るわけです。

大事なのは、才能がある分野で努力すること。例えば、子どもの100m走のタイムが20秒だとして、一生懸命練習しても13秒になったとしても、オリンピック選手になるのは難しいでしょう。でも、その子に絵の才能があれば、絵を描かせた方がいいわけです。

才能は先天的なものでなかなか変えられませんが、努力することは変えられます。ここが親の腕の見せ所なんです。

ある野球選手の例を挙げると、すごく努力して工夫していたけれど、やっぱりレギュラーになれなかった。才能は1で、努力は5をしても、結果は5しか出なかった。でも、その人が引退後にラーメン店を開業したところ、経営者として大成功し、チェーン店になったそうです。

中学受験で偏差値40しかなくて、すごく勉強してもあまりできないとしたら、それは勉強の才能がないのかもしれません。でも落ち込む必要はありません。ただ勉強という一分野にだけ才能がなかっただけの話です。

大事なのは、いろいろチャレンジして、努力することです。才能が1でも努力が5なら結果は5。でも才能がある分野で努力すれば、5×5=25という結果になるわけです。

親の声かけが子どもを育てる

子どもがどうやって努力し続けられる子に育つか、実は親の声かけがすごく大事なんです。ミラーニューロンという「相手を真似する細胞」があるように、人は周りの人に影響されます。特に一番多く接する人の言動に大きく影響されるんです。

親の言い方によって、子どもがやる気を持ってチャレンジする子にも、やる気のない子にもなり得るのです。「勉強嫌いな子ども」の家庭を見ると、兄弟全員が勉強嫌いということがあります。これは親の声かけによる影響が大きいのです。

努力し続ける子の成長事例

私の教え子の中に、小学校の時に発達特性があるのではないかと心配されていた子がいました。どこの塾に行っても成績が上がらなかったのですが、私が指導し、お母さんにもやり方を伝えると、成績が上がりました。

その子のすごかったのは「努力の塊」だったことです。発達障害ではないかと思われていた子が、国立大学を出て、今は東京都で学校の先生をしています。

もう一人の例は、九州の子で、高校受験に失敗し、その後××大学も現役・浪人と二度落ちたのですが、最終的には××大学の大学院に進学し、今は大学の助手をしています。同窓会で会った時、お母さんは「自分の子が一番活躍している」と言っていました。

この二人に共通しているのは「努力し続けること」です。九州の子は第二志望の高校に行ったけれど、大学では勉強し続けて主席で卒業しました。普通の大学生は遊ぶところを、勉強ばかりしていたんです。

伸ばす親の関わり方

では具体的に、親はどう関わればいいのでしょうか。例えば、学校から腕立て伏せ10回を1か月間毎日するという宿題が出たとします。この時の親の対応には5つのパターンがあります。

  1. 学校に怒る:「こんな宿題出して」と学校に文句を言う
  2. できないことを非難する:「なんでできないの?」「私は同じ年齢の時にできたのに」
  3. 無関心:「出たの?ふーん」と興味を示さない
  4. 親が手伝う:親が宿題をやってしまう
  5. 伸ばすお母さん:子どものできることに注目する

伸ばすお母さんの例で説明すると、子どもが腕立て伏せを1回しかできなかった場合、「もう1回だけやってみよう」と励まします。子どもが2回できたら「すごい!2倍だよ」と認め、その日はそこまでにします。

次の日もまた「1回だけやってみよう」と励まし、3回できたら「すごい!」と褒めます。このように少しずつ回数を増やしていくと、子どもは自分からやるようになるんです。

大事なのは、できないことを非難するのではなく、できたことを認めること。できたことを伝えていくと、どんどん子どもは成長していきます。

困難を乗り越える力を育てる

この考え方は、腕立て伏せだけでなく、勉強にも応用できます。例えば、過去問で60点が合格ラインなのに20点しか取れなかった場合。40点の差をどう埋めるか子どもと一緒に考えるのです。

計算問題で失点していれば、計算の練習をして5点上げる。初級算数の問題が間違っていれば、そこを練習して5点上げる。鶴亀算を練習してさらに5点上げる。このように、少しずつ点数を上げていくと、あと10点という差になった時、子ども自身が「絶対突破する!」とやる気になるんです。

この考え方は大人になっても使えます。例えば、子どもの大学進学資金を貯めていたのに、ご主人がリストラされたとします。諦めるのか、それとも別の方法を探すのか。不要なものを削る、親がバイトする、教育ローンを借りる、奨学金を活用するなど、様々な選択肢が見えてきます。

中学受験の真の価値

中学受験は確かに苦しく、辞めたくなることもあるでしょう。でも、そういう習慣を子どもに身につけさせることで、中学受験が人生の糧になります。

例えば、中学受験で第四志望だった子が、6年間努力を続けて国立大学の医学部に合格したという話があります。不合格だったことがマイナスではなく、むしろプラスになっているのです。

子育ては確かに手間がかかります。でも、その努力は必ず後で実を結びます。子どもの中に「粘り強く続ける」という姿勢が残れば、それだけで大きな財産になるのです。

今はすぐに結果が出なくても、長い目で見れば、その子の人生を豊かにする基盤を作っているのだと信じて、子育てを楽しんでいきましょう。

一覧 「ステップ化」で変わる学習効果 - 独学塾講師が語る教育のコツ