2025.06.01
ミシガン便り(4)
日本は今、夏の盛りで皆様汗を流して頑張っておられることと思います。ミシガンは5月から10月の間が一番気候が良く、中でも現在が最高で、私ども快適な夏の日々を送っています。8月に入って少しは涼しくなったようで、人の話によると8月下旬にはセーターを着るようになる由です。しかし日中は日差しがまだかなり強く、小生を除いてはみな真っ黒になりました。
こちらに来て変わったことが2つあります。1つは猛烈に食欲が進むことで、家内は予想と反対だと言って驚きあきれています。小生が一番最初にガックリきて痩せ細るだろうと言っていたのですが、それが全然反対になっています。もう1つは日本へ手紙を良く書くことです。小生はこの1ヶ月以内に、東京にいる時の3年分位のものを書きました。この筆まめも女房のあきれていることの1つです。
当地での日常生活はすっかり軌道に乗りました。小生は、月曜から金曜までの間は、毎朝8時に家を出て、無料構内バスに乗り、8時15分に研究室に着き、コーヒーを一杯飲んでその日の仕事にかかります。主な仕事は週2〜3日が実験(これは大抵午前中に済んでしまいます)で、他の時間はこれらのデータの整理、文献収集に費やします。研究室は仕事をする処ですから、くつろぐ空間があるだけで、関東逓信病院のような快適なスペースはなく、淋しい気がします。とにかく向こうの連中はコーヒーをよく飲み、私もそれに釣られて夕方までに毎日5〜6杯は飲むようになりました。コーヒーレントとして、月当たり1ドルを出し合っています。12時を過ぎると誰かがランチと叫びます。そうすると方々で仕事をしていた人達が、その仕事をやめて1室に集まり、昼食をとるわけです。近くに食堂がないわけではありませんが、誰も行かないのはお金がかかるためです。大抵の人がサンドイッチ持参で、それも2切れか3切れ位で、身体の大きなアメリカ人がこれで持つかと心配なほどです。私もサンドイッチを持参しますが、夕方になるとお腹が空いてしまって仕方がありません。低カロリー食などと言って、スープみたいなものを流し込んで済ます人もいます。とにかく男性ばかりメシを食うわけですから、五反田のような楽しさはなく、毎日御地をなつかしく思い出してしまいます。
私の場合は、自分の仕事以外にボスの仕事を手伝うことが多いので、帰りは6時過ぎになりますが、他の連中は5時頃になると何とはなしにいなくなります。ここでは日本と違って、教授といっても、別に格式を張ったことはなく、皆平等で、帰るのもボスが一番最後になることが大抵です。この辺のムードは大変よろしいと思っています。まあこんなスケジュールで毎日やっています。
大体ここの大学の連中は、少なくとも週日は、町へ出て遊ぶということはありません。これは金がかかるからだと思います。その代わりパーティはよく開きます。こちらに来てから1月の間にもう3回ありました。これらのパーティは何処かへ出かけてやるというのではなくて、誰かの家(主に教授宅)で開かれるのです。もちろん夫婦一緒で、子供はオフリミットです。この間子供は、私の場合は、日本人の知人に頼みます。パーティと言っても堅苦しいところは全然ありません。飲んで、食べて、話をするだけ、話は当たり障りのないつまらない事ばかりですが、それでも連中は結構楽しそうにしゃべります。女性連中がおしゃべりなのも驚きです。日本人の女性では、たとえ英語がペラペラだとしても、ちょっとあれだけしゃべることはありますまい。パーティは大抵遅くなり、12時前に帰ることはありません。これは音楽会などの場合でも同じで、始まるのは大抵8時半か9時頃からです。音楽会といえば、ミシガン大学には、各地から有名人が来るので大変好都合です。9月にはニューヨークフィル(小澤征爾指揮)、10月にはN響が来ます。1回2ドル位で安く聴けるのは有り難いです。この前の週末には名誉教授の別荘というのに招かれました。アナーバーから車で20分位の湖畔にあって、その立派なのには本当に驚きました。湖岸の3,000坪位の土地に大きな家が建っていて、船着き場があり、モーターボート、ヨット等も備わっていました。病院の眼科の連中も一緒で20家族位(子供を入れて60〜70人)が集まりましたが、あまり広いので大した人数とは思えませんでした。こちらでは土地の値段はただみたいなものだそうですから、驚くには当たらないのでしょうが、全くうらやましくなります。
時間もそう厳格ではなく、30分から1時間遅れて行くのが普通のようで、行ってからあとは、各人適当におしゃべりをしたり、水泳ぎをしたりするのです。その間ホスト役の名誉教授が椅子を持って来てくれたり、飲み物を用意してくれたりと、とにかく一生懸命サービスしてくれました。上の子供は、念願のモーターボートに乗せてもらったり、水上スキーを見せてもらったりして喜んでいました。最後は夕食が用意され、これが済むとホストとホステスに一言 Thank you very much, またいらっしゃってくださいね、の挨拶が取り交わされて、それでお開きということになります。こんな状況で当地では偉い人ほど仕事も忙しいし、またお金もたくさんいるようです。
昨日はシカゴにいる井上先生(駿河台井上眼科の御令息)がアナーバーにやって来ました。私の研究室を見た後、私の宅で積もる話をしました。彼は3年前会った時と少しも変わっていません。シカゴは余り住み良くないとか、それに引き換えアナーバーは清浄で、公園のような処が多い、羨ましいなどと言っていました。アメリカの大都会はどこもあまり環境が良くないようですね。これはデトロイトも同様です。
このように申し上げても、そのうち都会が必ず恋しくなってくるのは目に見えていますが、現在はまあ満足しています。土曜、日曜が休みで、通勤が楽なのが、ここの取り柄です。週末にはそろそろ遠出をする予定でいます。日本からのニュースは全くなし、このままでは浦島太郎になっていくことでしょう。