2025.06.01
ミシガン便り(3)
アポロは日本では大変な熱の入れようだったと聞いています。しかし当地ではそれほどの騒ぎはありませんでした。新聞、テレビともさすがに着水当日は1日中そのことで持ちきりでしたが、その前後はちょっと片隅に小さく出るくらいで、私達も何日に月に着くのかなかなかわからなかったくらいでした。研究室で、前の机にいるヒッピーヒゲの学者が、たまたま隣の部屋で、秘書が、発射の模様を旧式のラジオで聞いているのを盗み聞きしていて、TOOK OFFと叫んで、どこかへ走って行ったのが印象的だっただけでした。うまく成功しても、そんなことはちっとも話題にならない感じでした。着水の翌日の日曜は、ニクソン大統領が、国民祝日にすると宣言したとか聞きましたが、病院は平常通りで、州の公館庁もところにより休んだり、休まなかったりのようでした。しかし当地に来ているニューヨークタイムス紙午前8時には売り切れてしまったそうです。歴史的価値があるというのでしょう。私は新聞はThe Ann Arbor Newsというのを読んでいます。発行部数3万程度のローカル新聞ですが、いつも32頁位はあり、その中の半分ほどの頁は広告です。小さなスーパーマーケットが1頁大の広告をのせたり、毎日、その日に結婚した花嫁が写真入りで紹介されたり、誰が死んだとか、離婚したとか、いろいろ細かいことがのります。したがって世界のニュースは少なく、日本のことにはこの1ヶ月等々お目にかかりませんでした。
テレビは新聞よりももっとひどく、とにかくコマーシャルの多いのにあきれています。ニュースの時間に、4項目のニュースをやるのに、その1つごとの間にコマーシャルが入ります。そんなわけで、宇宙問題にしろ、政治社会問題にしろ、東京にいる方がずうーっと知識が豊富です。NHKをはじめ、日本のマスコミは本当にすばらしいものだとつくづく感じております。アメリカには、黒人問題、ベトナム問題と多くの問題があることは、日本にいるとき知っていましたが、当地に生活していると、そんなことはどこの国の問題かと疑わしくなるくらいです。これは私の情報源が限られたものであること、また当地が田舎であることなどが原因だと思われます。
ここにいると、日本を改めて見直すことができます。たとえば日本の優れた商品です。カメラ、テープレコーダー、楽器などは日本製が大もてです。ニコン、ソニー、ヤマハなどの名前は一人前の大人なら知らぬ人はありません。私の研究室備え付きの複写装置はミノルタ製です。私が秘書に、日本では私のところでは米国製を使っていたと言いましたら、笑っていました。スーパーマーケットに行きますと大抵どこでも写真機売り場があり、そこにはコーワ、ミノルタなどが一杯並べられており、コダックはほんのお義理に隅の方に置かれてあるだけです。ニコン等は高級品で、当地ではなかなか手に入らないとのことです。フィルムはコダックが万能ですが、テレビのコマーシャルで傑作なのは、「日本人でもコダックのカメラを使っている!」というのです。どうもアメリカ人は精巧なものには弱いらしく、食べ物にしても、他の商品にしても、日本のようなきめ細かさは見られません。子供の玩具などはその典型でしょう。
今は当地は一年中で最も気候の良い時節らしく、週末は大抵どこかに出かけます。ちょっと車を走らせると自然の公園がいたる所にあり、そこにはバーベキューの設備や、ソフトボール、バトミントン、バレーボール等のできる広場が、自然にマッチして備わっています。そこで集まったものでメンバーをつくってスポーツを楽しみます。野球をやるにしても、同じグループだけではどうせ人が足りませんから、いろいろな人種の人達が加わり、老若男女で一緒に楽しむのです。日差しが強く、私達も大変黒くなりました。気温は日本の夏くらいに上昇しますが、湿気が少ないので、汗はほとんどかきません。朝晩は涼しくてとても凌ぎやすいです。下の赤ん坊は日本では小児喘息的な気配が続いていましたが、こちらに来て2〜3週間の中に、すっかりその症状が消えてしまいました。上の子も時々扁桃腺を腫らして、耳の聞こえが悪くなったりしましたが、こちらに来てからは調子良くやっております。これは風土の関係と思われます。ただ冬はどうにも天気が悪いらしく、今から思いやられます。 ( 44. 8. 10 )